早朝の勝田駅で起きた、撮り鉄たちの「罵声大会」。ひな壇の前に、後から来た人たちが三脚を高い位置に設置したのが原因とみられる(写真:@KEIO_GOMIさん提供)
早朝の勝田駅で起きた、撮り鉄たちの「罵声大会」。ひな壇の前に、後から来た人たちが三脚を高い位置に設置したのが原因とみられる(写真:@KEIO_GOMIさん提供)
AERA 2021年5月17日号より
AERA 2021年5月17日号より

「撮り鉄」による迷惑行為が後を絶たない。なぜ、彼らのマナーは崩壊してしまったのか。AERA 2021年5月17日号から。

【線路侵入、「下がれ」の罵声…主な撮り鉄事件簿はこちら】

*  *  *

「下げろって言ってんだろ、ボケ!」
「日本語聞こえねーの?!」
「あとから来たんだから、マナー守れよ!!」
 
飛び交う罵声と怒号──。

 1月30日午前4時すぎ。まだ薄暗いJR常磐線勝田駅(茨城県ひたちなか市)のホームで騒動は起きた。鉄道ファンのなかでも、列車の撮影に人生をかける「撮り鉄」たちによる、仁義なき戦いだ。

 撮り鉄が狙ったのは「勝田工臨=こうりん」と呼ばれる列車。工臨とは「工事用臨時列車」の略で、レールや砕石など線路の保守工事用の資材を運ぶ列車のこと。今回は、前と後ろにEF81形電気機関車が2両、その間に輸送用貨車3両挟んでの編成となった。

 工臨は運転自体が少ない。近い将来、今回のような「機関車+貨車」という運び方が変わるといわれている。こうした状況から、多くの撮り鉄がホームに詰めかけ、いい写真を撮ろうと一触即発の状況になったのだ。

■注意すると「逆ギレ」

 冒頭のような光景は「罵声大会」と称される。この時、現場にいた撮り鉄の男性(18)によると、ホームには100人以上が押しかけていたという。

「前の人たちが三脚を高くしていたりしたことで、後ろの人たちがキレてました」

 駅を管轄するJR東日本水戸支社によると、大きなトラブルにはならなかったという。だが、「安全には十分に注意して、撮影していただきたい」(広報室)と苦い表情だ。

 いま撮り鉄のマナー違反が問題になっている。

 近年勃発した、撮り鉄たちの傍若無人ぶりは目を見張る。

 線路内に立ち入るなど、妨害行為ともいえるケースも多い。あまりのひどさに腹を立てた車掌が、乗務員室から中指を立てたケースもあった。JR側は車掌の行動を謝罪したが、むしろ車掌への同情の声が広がった。

 写真への「執念」、にじみ出る「情念」。ここまで夢中になる撮り鉄の心理は、「いい写真を撮りたい」に尽きる。

 だが、あるローカル線の幹部は迷惑な撮り鉄に、憤る。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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