■迅速な救済は大前提

 もう一点、筆者は予防接種不信が被害補償の遅れと結びついていることをつけ加えておきたい。国は「予防接種健康被害救済制度」を設け、死亡一時金4420万円の支給などを掲げているが、仕組みが周知されているとは言い難い。しかも健康被害を受けた本人や遺族が救済給付を自治体に申請し、都道府県、厚労省、審査会を経て実行されるまでにかなりの時間がかかる。裁判に訴えると下手をすれば判決確定に十数年を要する。その間、被害者は置き去りにされたままなのだ。たとえ100万人に1人の被害でも当事者にとっては確率の問題ではなく、厳しい現実そのものである。迅速な救済なくして予防接種不信の解消は難しい。行政がワクチン開発に本腰を入れるなら被害の救済は大前提であろう。(ノンフィクション作家・山岡淳一郎)

AERA 2021年5月17日号より抜粋