財務省近畿財務局職員だった赤木俊夫さん。「私のことをすごく大事にしてくれ、面白くて優しい人でした」(雅子さん)(写真:赤木雅子さん提供)
財務省近畿財務局職員だった赤木俊夫さん。「私のことをすごく大事にしてくれ、面白くて優しい人でした」(雅子さん)(写真:赤木雅子さん提供)

 赤木俊夫さんが命を懸けて訴えた文書の存在を、国がついに認めた。国はどこまで内容を明らかにするか、注目が集まる。AERA 2021年5月17日号の記事を紹介する。

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 あるのかないのか存否すら明らかにしてこなかったファイルを、国はついに認めた。

 5月6日。国はいわゆる「森友問題」で自死した財務省近畿財務局の元職員・赤木俊夫さん(当時54)が、改ざんの過程を書き残したとされる文書「赤木ファイル」の存在を認める回答を書面で出した。

「あることを認めてくれただけでなく、6月23日に出すと言ってくださったことにひとまず安心しています」

■命を懸けて訴えた文書

 書面を受け取った妻の雅子さん(50)は、安堵の表情を見せた。書面は午後5時ごろファクスで届いた。全5ページ。そこには、雅子さん側が裁判で求めたファイルの存在について、「改ざんの過程等が時系列にまとめられた文書」や「財務省理財局と近畿財務局との間で送受信されたメール及びその添付資料と思われる文書等」が特定できたなどとある。そして、6月23日の次回口頭弁論で提出するとの見通しも示した。

 雅子さんの弁護団メンバーの松丸(まつまる)正弁護士はこう評する。

「今まで赤木ファイルは『探索中』などという理由で長い間、出てこなかった。ファイルは赤木(俊夫)さんが改ざんの事実を明らかにするために、雅子さんに『遺言』のような形で残したもの。命を懸けて訴えたファイルがようやく認められた」

 森友問題は、大阪府豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に約8億円も値引きした価格で売却されたことに端を発する。学園の「名誉校長」に就任していた安倍晋三前首相の妻・昭恵氏の関与も取りざたされた。この問題を国会で追及された安倍氏は2017年2月、「私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」と言い切った。この直後から、財務省の隠蔽工作は始まった。改ざんを命じられた一人が、俊夫さんだった。

 公文書改ざんという民主主義の根幹を揺るがす事件。それにもかかわらず、動機や指揮系統など全容は依然解明されていない。糸口になると考えられているのが「赤木ファイル」だ。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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