■アンチも気にならない

 顔の前で人さし指を振りながら、「No,No,No,No」。いったん横を向き、勢いよく前を向きなおして「Don’t waste your time」。高校生や大学生の間で絶大な人気を誇るフレーズだ。

 生み出したのは、MC TAKAさん。バイリンガルのMCとして活躍してきたが、新型コロナ禍で現場仕事がなくなったこともあり、去年7月から本格的な発信活動を始めた。選んだのはTikTok。基本的に自身のフォロワーだけに投稿が届くツイッターやインスタと違い、TikTokはフォロワー0でもバズる可能性がある。動画の長さや編集の仕方などの最適解を探し、緻密な準備の上で投稿を始めた。4本目の動画が思惑通り人気を呼び、わずか5カ月でフォロワー38万超の人気インフルエンサーとなった。発信するのは、英語に関する豆知識や勉強法など。最近は自身が感じる社会への違和感についても投稿する。建築作業員や介護職員らへの敬意を伝える動画は人気シリーズになった。

 一方、はっきりとした物言いやときに反感をあおるような話し方で、いわゆるアンチもいる。脅迫のようなダイレクトメッセージも送られてくる。それでも、本人はどこ吹く風だ。

「発信は戦略的にやっています。芸人やユーチューバーを見ても人気者には猛烈な数のアンチがいますよね。それなら先にアンチを作っちゃえと。だから何を書かれても全く気になりません」

 動画を視聴する19歳の男子大学生が言う。

「TAKAさんのあおり口調のフレーズはイラッとするけどおもしろい。ついマネして毎日使っています。社会にあるおかしなことについてもストレートに発言していて、口調はああでもいい人なんだろうなとファンになりました。会ったことはないけれど、『人柄』が好きです」

 インフルエンサーの発信と熱狂する若者たち。上の世代にはなじみが薄いだろう。しかし、「1990年代中盤から2012年ごろに生まれた世代」と定義されるZ世代は、10年もすれば社会の中心を担う。インフルエンサーたちの発信に、社会を動かすヒントが隠れているのだ。(編集部・川口穣、ライター・仲宇佐ゆり)

AERA 2021年5月3日-5月10日合併号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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