一方で、母というものの描き方については谷崎と同じようにはいかなかったという。作中には様々な母親が登場するが、いずれも傷つき苦しみを抱えている。

「私は女性なので谷崎のように母を仰ぎ見るような視点では書けなくて、母の苦しみや母を求めるが故に苦しくなってしまうというような、谷崎とは違う母恋ものにしたかったんです。美佐も不妊で、母になりたかったのになれなくて悩んでいますよね」

 祖母の時代よりはるかに自由に自分の人生を生きられるはずなのに、理解し合えない夫と姑との関係に苦しむ美佐。祖母の人生に触れた果てに彼女が掴むものは、きっと多くの人に共感を持って受け入れられるだろう。単行本の帯には大きく「まだ、終わりじゃない。」の文字。これはタイトルの「花は散っても」と続けて読むようにできている。

「女性を花に例えて花の命は短いとかいうことにも腹立ってるの。花が散ったら実ができるでしょうに(笑)」

(ライター・濱野奈美子)

■東京堂書店の竹田学さんオススメの一冊

『政治活動入門』は、政治の魅力に人を誘う危険な書。東京堂書店の竹田学さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 本書は異色の革命家・外山恒一のライブ感あふれる魅惑的な政治活動入門書である。

 著者によると政治活動とは、個人の生きづらさを他人と共有し、共同して活動することで時代状況や社会状況を改変することだ。そのためにも歴史を知ること、教養は必須と著者は説き、戦後史や学生運動史を懇切丁寧に、かつ挑発的に解説する。

 歴史や世界情勢を見ても、社会変革には学生運動が活発化しなければならないと著者は主張する。その立場から「若い知的なヒマ人たち」(学生)に向けて、本書はきわめて実践的に運動の構えや方法、経験を語っているが、学生でなくとも自らの政治意識を強く刺激されるだろう。

 著者はファシストを自称し、本書のクライマックスは「ファシズム入門」である。ライトな体裁だが政治の魅力に人を誘う危険な書と言える。

AERA 2021年4月5日号