「事業を成功させるには、自分自身がそのモノやサービスを心から欲していること、そして業界全体をどのように引っ張っていきたいかという展望が必要です。『どれくらいもうかるか』と利益を先に考える時点で、事業は矮小化してしまいます」

 小川さんの、常に本質を捉える思考は、実際の事業計画や経営手法にも表れている。タイミーのアプリ開発を始めたのは、リリースのわずか2カ月前。それまでは大学の友人ら300人ほどにLINE@に登録してもらい、自分がクライアントから獲得した案件を流してマッチングを行うことで、ギリギリまでサービスの需要を仮説検証した。

「タイミーの本質は、『誰でも空いている時間に、気軽に働けて、すぐにお金がもらえる』という機能。それが再現できれば、既存のシステムを利用しても構わない。最初からアプリ開発を目的とするのは違うと思いました」

■慶應なら三田会が土台

 経営者に求められるリーダーシップや判断力を養ううえでは、大学で受けた授業も非常に役立ったと話す。一方で小川さんは、「あえて学生起業家を増やすことには違和感がある」と言う。

「環境や教育の影響、性格的な向き不向きもある。皆が経営者になる必要はないし、なったら幸せになれるとも思いません」

 重要なのは、学生に起業させることではなく、起業しやすい場づくりだ。小川さんは、「大学には、OGやOBの起業家と在学生をつなぐ“ファンド”の役割を期待したい」と話す。

「例えば東大や慶應からは多くの起業家が生まれていますが、慶應なら三田会がクライアントとなって慶應発のベンチャーを支える土台があることが、大きなアドバンテージになっています。どの大学にも、起業した卒業生はいるはず。こうした先輩が、母校の後輩たちとつながり出資や支援ができるような“器”を作ることが、今後求められるのではないでしょうか」

(ライター・澤田憲)

AERA 2021年3月29日号より抜粋