「チクチクするのが、イヤなのかな?」

「赤色がよかったのかな?」

 こんなふうに、具体的に言葉に出して聞いてあげましょう。すると、子どもの方も、自分の気持ちを分かろうとしてくれていることを感じ取り、「イヤ」と言うだけではなく、分かってもらえたと捉えて、気持ちが落ち着きます。そして、このような共感的な関わりをしてくれる親の話す言葉を聞きながら、子どもは、他者とのコミュニケーションの方法を学び取っていくのです。この時期に気持ちを代弁してもらえる経験をしてきたか、一方的に無理やりされたかで、その後の人との関わり方に大きな違いが出てきます。

 しかし、かわいい我が子といえども、駄々をこね、泣きわめくのに付き合うのは労力を要します。特に、外出先でこうした状況に陥ると、早く切り抜けたいという一心から、ぐずったらすぐにスマホで動画を見せて、泣きやませようとする人がいます。子どもの成長を考えると、よい対処法とはいえません。気をそらされた子どもの方は、上手に自分の気持ちを伝える術を学ぶチャンスを失うことになるからです。これが繰り返されると「親は、自分の気持ちを理解してくれる存在ではなく、自分の都合でごまかす人」という認識が生まれてしまい、更に大きな抵抗にあうか、表現することを諦めてしまうこともあります。

 この関係性を取り除くのは容易なことではありません。“ごまかし育児”を受けた子が思春期を迎えると、親とのコミュニケーションが上手く取れないがために、大変な反抗期を迎えるケースが多く見られるのです。イヤの気持ちをごまかさずに受け止めてあげながら、上手に発散や気分転換をできるようにしましょう。その場しのぎの関わりはかえってイヤイヤ期を長引かせるため、気をつけておきましょう。

 また、友達と遊んでいるときなどは、本人のイヤだという気持ちをあまり押し殺させないほうが良いでしょう。相手の子どもや親との関係を気にするあまり、求められていることに応じるように強要すると、本当はイヤでも、自分の気持ちにウソをついて、「いいよ」と言わないと親に認めてもらえないという、親の顔色をうかがう子になってしまうことがあります。トラブルを起こさないようにその場をつくろうのではなく、「今、私が使っているから後でね」と、自分の気持ちを正直に伝えられるようにすることと、「〇〇ちゃんも使いたいんだって」と、相手の気持ちにも気づかせてあげる両方が大事です。本当のコミュニケーション力とは、自分の気持ちを大切にしながら、相手の気持ちとの調整がうまくいく工夫ができる力だからです。

(フリーランス記者・宮本さおり)

※アエラムック「AERA with Baby 解決!子育ての基本の悩み」より