「一時は、世界に自分の居場所がないような感覚でした。誰にも相談できずにいたけど、ここでは何を話しても否定されないのが大きかった」
■早期介入の重要性
スタッフの一人で精神科医の内野敬さん(31)によると、精神疾患を発症するのは10代から20代前半が多い。世界的にも「早期支援」の重要性が唱えられるようになってきた。SODAが対象者を若者に絞っているのはそのためという。
若者はメンタルの不調を感じても、みずから受診するのはハードルが高い。また、病気かどうかはっきりしないグレーゾーンは医療では対応しづらい。
「SODAが地域における『相談の入り口』になればいいなと思っています」(内野さん)
北千住駅にはJRや東京メトロ、東武鉄道などが乗り入れ、アクセスが良い。大学が複数あることも北千住が選ばれた理由だ。土曜日を含む週3日は夜8時まで対応している。
SODAを構想するうえで参考にしたことの一つは、国家規模で若者への早期支援をおこなっているオーストラリアだ。06年から始まった「ヘッドスペース」という相談窓口が全国に100以上ある。テレビCMも流れるなど、市民にとって身近な存在だ。SODAはその日本版で、専門家チームによる手厚いケアは「ヘッドスペース以上」と自負している。
コロナ禍が起きる以前から、日本では若者の精神疾患や自死の問題が深刻だった。SODAの試みは小さな一歩かもしれないが、厚労省も注目している。「精神疾患と診断されている人を支えることはもちろんだが、誰でもかかりうるものなので予防や早期介入は重要な取り組みの一つと考えている」(厚労省精神・障害保健課)。こころのセーフティーネットのあり方を問い直す意義は大きい。(ジャーナリスト・磯村健太郎)
※AERA 2021年3月22日号