大統領府国家安保室長時代は情報を独占したがり、極秘訪米の際、「自分が訪問したことを在米韓国大使館にも言うな」と頼んで、米側の失笑も買った。鄭氏を迎え入れる外交省では早速、その古くさいスタイルを揶揄(やゆ)して「始祖鳥」「アンモナイト」といった陰口が飛んでいるという。

 鄭氏の場合も、姜氏と同様、「知っている者同士で、残る任期をがんばってくれ」というお友達人事と言えそうだ。

 司法当局では、「大統領は三権分立と言ったではないか」と反発する機運も見られるという。過去、軍事独裁政権に司法を壟断(ろうだん)された経験から、韓国では「司法の独立性」を重視する。

 いくら文大統領の指示でも、せいぜい強制執行を遅らせ、問題をうやむやにするのが関の山という見方も出ている。

 日本側は1月15日の外務局長級協議で「強制執行は行われないという保証が必要だ。それがなければ、我々も動きようがない」と伝えた。

 大統領の発言は、今のところ、改善への道筋に非常にもろい薄氷を敷いただけに過ぎないのかもしれない。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

AERA 2021年2月8日号