韓国大統領府はチョ氏が政権を去った直後の19年12月の日韓首脳会談で、首相官邸と大統領府による懸案解決のライン構築を打診。その後に大統領府外交政策秘書官が複数回、極秘に訪日するなど、対応が柔軟になってきていた。文氏が会見で「努力をしている」と語ったのは、こうした一連の変化を指したものだ。

■大統領の発言は重い

 では、文大統領の言葉通り、強制執行は行われず、日韓関係は改善していくのだろうか。

 確かに「王様と皇帝を合わせたくらいの権力」(大統領府元高官)を持つ大統領の発言は重い。韓国の法務省は司法当局との間で、強制執行回避の妙案を、女性家族省は元慰安婦らが強制執行しなくても満足できる方法を、それぞれ探るだろう。

 一方、やはり大統領府の高官だった人物の一人は「自分が見る限り、下の連中にそれほどやる気は感じられない」と語る。その根拠は、最近の日本がらみの一連の人事にあるらしい。

 一人は1月22日に来日した姜昌一(カンチャンイル)駐日大使だ。姜氏は赴任前後、周囲に「大統領は本気だ」と触れ回っている。同時に、韓国メディアによれば、日本が15年の日韓慰安婦合意に基づいて拠出した10億円を活用する案も示しているという。

 これに対し、日本政府関係者の一人は「個人的な意見だが、とてものめない案だ。日本は賠償のつもりで基金を拠出したわけではない。姜氏は日韓関係を理解していない」と語る。そもそも、文政権は事前に、日本政府に大使を巡る人事の相談をしていなかった。元韓日議連会長という肩書などから早合点した「お友達人事」だと言われた。

■プライド高く古くさい

 もう一人が、新外相に指名された鄭義溶氏だ。鄭氏は盧武鉉(ノムヒョン)政権時代、国連事務総長候補に名前が挙がったこともあり、プライドが高いことで有名だ。北朝鮮の核廃棄を十分確認せず、米朝首脳会談の性急な開催を双方に持ちかけたことなどから、ボルトン元大統領補佐官から「ウソつき」呼ばわりもされた。トランプ政権が続いていたら、外相就任は難しかっただろう。

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