中1生全員に授業をしたあと、現在は中1から高2までの有志30人が、「食と微生物」「食品ロス」「社会課題解決食ビジネス」の3チームに分かれ、さらなる探究を進めている。

■地方の高校参加に期待

 こうした学びのSTEAM化を、日本全体に広げるために、前出の「未来の教室」が昨年10月から進めているのが「STEAMライブラリー事業」だ。

 事業にはさまざまな学校、大学、企業、NPOなどが参加している。例えば、海城はピースボート災害支援センターと組み、地学×社会×古典で日本の災害の歴史や仕組みを学び「災害に対してどう向き合うか」を探究するコンテンツを開発する。ネットの高校「N高」を運営する角川ドワンゴ学園はAIスタートアップのグルーヴノーツとともに、機械学習を活用して身近な課題を解決する教材を作る。こちらは技術×社会×国語の組み合わせだ。化学基礎×家庭×美術で伝統工芸の漆についての探究教材を作っているのは、立命館宇治と伝統工芸を軸に日用品の企画開発などを行うaeruだ。

 STEAMライブラリー事業を進める経産省の浅野大介教育産業室長は「オープンイノベーション」がキーワードだと話す。

「ライブラリーが、企業や大学、学校現場の先生・生徒が出会い、交流し、共創していく場となる。そこからたくさんの問いが立っていくことが重要です」

 ライブラリーは誰でも利用可能。違う学校の生徒が一つのテーマを一緒に探究することも想定している。もう一つ、期待されるのは、地方のごく普通の公立校の参加だ。

 自身も旭川農業高校と組んで、ロボティクスと農業について考える授業づくりに取り組んだ、数学研究者でジャズピアニストの中島さち子さんはこう語る。

「農業高校は、水田の草取りに使っているラジコンボートを自動運転にできないかとか、肥料散布も自動化したいとか、リアルな課題が満載です。しかも生徒たち自身が当事者なので目の色が変わります。勉強というのは過去のことを学ぶと思っていたけど、『そうじゃない。目の前の課題解決に役立つんだ』と感じられることにすごく意味がある。STEAMを単なる調べ学習で終わらせてしまってはもったいないんです」

次のページ