NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事で子育てアドバイザーの高祖常子さんが、コロナ禍の虐待について解説する。

「ただでさえ頑張って子育てしているところに、感染対策ができているだろうかと不安になり、自由に出かけられないとか、収入が減ったとか、コロナ禍は誰もがいつもよりイライラが募るときだと思います。どうしてできないのと、つい怒鳴ったり、手をあげて言うことを聞かせたりしたくなる。それが当たり前になると、子どもの命を奪う虐待にまでなってしまう」

 実際に、全国の児童相談所の対応件数は、2020年1月からの半年間、前年同期比で1割多い9万9724件だった。東京都北児童相談所の横森幸子所長は、コロナ禍の虐待の実情を話す。

「特に昨春の緊急事態宣言下は、自粛によるストレスで、両親のけんかによる暴力を目撃する『面前DV』、勉強しない子どもを叩く『身体的虐待』、感染対策をせずに遊びに行こうとする子どもを怒鳴る『心理的虐待』がありました。児相の対応件数は近年急増しており、今年は在宅ワークが広がったことで、泣き声や異変に気づいて通告に至るケースもありました」

 虐待の原因は、イライラだけではないと元児童相談所所長でNPO法人児童虐待防止協会理事長の津崎哲郎さんは話す。

「しつけと称して叩いたり、殴ったりすることは、虐待だと法律で定められています。ですが、つい一度叩いたら、必ず虐待と認定されるわけではありません。家庭内に何らかのトラブルがあり、家族と信頼関係が築けていない子どもは、虐待だと感じます。虐待かどうかは紙一重なのです。コロナ禍の虐待も、潜在的な問題があったところに、イライラが加わって、エスカレートしているのです」

 潜在的な問題を抱えているのは、必ずしも特殊な事情のある家庭ではないという。社会福祉法人子どもの虐待防止センター(CCAP)の電話相談には、20年3~5月に前年同期比3割増の電話がかかってきた。コロナ前までは、初めての相談は1日に1、2件くらいだったが、コロナ禍になってから、1日5~6件が初めて電話してくるようになった。相談員はこう語る。

「休校中は、『子どもと2人きりのこの場から逃げたい』『テレワーク中の夫が、子どもを黙らせるように言う』と、悲鳴に近い母親からの電話がありました。つい子どもにイライラしてしまうと、1人での育児に限界を感じているようでした。家庭にあった小さなささくれが、コロナをきっかけに大きな傷になっていると感じました」

 なぜ親子で信頼関係を築けないのか。日本子ども虐待防止学会理事長で小児精神科医師の奥山眞紀子さんは、一つの理由を挙げた。

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