学芸大学駅そばの居酒屋では焼き台を入り口横に移して戸を大きく開けていた。換気は十分。ただ、常連客は「7時までじゃ行けないよ」と嘆く=13日(撮影/小田健司)
学芸大学駅そばの居酒屋では焼き台を入り口横に移して戸を大きく開けていた。換気は十分。ただ、常連客は「7時までじゃ行けないよ」と嘆く=13日(撮影/小田健司)

 政府の新型コロナ対策でやり玉に挙げられ、時短営業を迫られている飲食業界。閉店や優秀な人材の流出が進む中、専門家は政府の姿勢に疑問を示す。AERA 2021年1月25日号から。

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※【「昼間もダメ」「罰金議論」に時短営業の飲食店主ら怒り爆発 政治の責任を棚上げするな!】より続く

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 追い込まれ、労働者の大量流出が現実味を帯びている飲食業界。そもそも感染対策の「急所」(昨年12月21日、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長)とまで業界を特定する必要はあったのか。

 菅義偉首相も、東京など1都3県に宣言を出した際の1月7日の記者会見でこう述べた。

「1年近く対策に取り組む中で学んできた経験を基に、徹底した対策を行います。その対象にまず挙げられるのが、飲食による感染リスクです。専門家も、東京で6割を占める経路不明の感染の原因の多くは飲食が原因であると指摘されています」

 だが、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師はこの考え方に懐疑的だ。

 厚労省によると、感染者が判明した際に追跡調査の対象となる「濃厚接触者」は、感染者の同居者や長時間同じ車内にいた人たちなどをいう。マスクをつけて接触した場合には対象にはならない。

「マスクを外すのは、食事をするときや家の中にいるときなので、現状の追跡のルールでは必然的に、飲食店や家庭内での濃厚接触者や感染者が増えることになります。もちろん飲食店で感染が広がるケースは一定程度ありますが、今回の第3波で飲食店を『急所』とまで言う根拠はありません」

 上医師によれば、第2波までは飲食店が感染拡大の主な原因になったという報告は海外でもあるが、感染防止の対策が確立しつつある第3波でも状況は同じかといえば、そこは明確な世界の共通認識はないという。

「飲食店だけ営業を止めてうまくいくのなら、米国やヨーロッパもそうしているはずですが、実際は厳しいロックダウンをしています。世界は、そうしないと制御できないと考えているからです」(上医師)

■補償の議論置き去りに

 それでもあえて飲食店を主な対象とする対策は続く。さらに、専門家からは別の注文もつく。元大蔵官僚の野口悠紀雄・一橋大学名誉教授は支援のあり方を考え直すべきだと言う。

「時短の協力金は、収入の減少を補償するものではないとされています。時短要請に協力したことへの『お礼』の意味で支払われています。問題は、補償をする必要がないのかどうか、ということです」

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