もちろんこれは、飲食に限らず宿泊業などあらゆる分野で働く人たちにも共通する。

 昨年7~9月の法人企業統計で、金融・保険業を除く全産業の売上高は前年同期比11.5%減の309兆2524億円、経常利益は28.4%減の12兆3984億円。飲食を含むサービス業だけでなく、ほぼすべての業種で減収減益となっている。

 それでも、補償の対象や金額が際限なく広がることを危惧してか、政府は一貫して補償を避けてきた。野口教授は続ける。

「どの程度の補償をするかという問題はありますが、所得に応じた補償はするべきです。確定申告や決算などのデータから状況が分かってきた今ならきめ細かい補償ができるはずです。補償の網に引っかからない人を放置するべきではありません」

 思い出横丁を歩いた1月13日、筆者は都内の他の繁華街も取材で訪ねた。

 新旧の飲食店が集まる東京・三軒茶屋の通称「三角地帯」では、やはり夕方になっても客足は鈍く、休業を知らせる貼り紙が何枚も貼られていた。

 モツのどて焼きが名物の居酒屋の男性店長は「普段来てくれるお客さんの飲み始めが午後の7時や8時だから、商売にならない。1日6万円の協力金も、うちでは足りない」

 一方で、三軒茶屋周辺では午後8時以降に開けている店には客が集中しているという現象も起きているという。

 目黒区の東急東横線学芸大学駅近くにある居酒屋を午後7時前に訪ねると、やはり客はまばら。「密」とはほど遠い状況だ。元々は店内にあった焼き鳥用の焼き台は、大きく戸を開け放った店の入り口に移した。テイクアウトを利用してもらおうと通行人へアピールするとともに、店内の換気にもつながっている。

 店長の女性によれば、このコロナ禍で最も売り上げがあったのは時短要請に応じなかった8月で、コロナ前よりも稼いだ。今回は罰則までちらついたことから午後8時までの8時間の営業にしたという。

「限られた時間でどうするか。純粋に困っています。近くの同業者さんもみな同じようです」

 政治に振り回される飲食業界。今回の時短要請で、本当に感染抑制の結果は出るのか。1カ月で効果が出なかったら?の問いに「仮定の話」として答えない人がこの国のトップなのが、とてつもなく不安だ。(編集部・小田健司)

AERA 2021年1月25日号より抜粋