■写真家ならではの編集や構成

──写真家ならではの編集がいくつも見受けられたのも印象的でした。例えば北海道で2匹のメスが激しく喧嘩する場面は複数枚の写真で構成されていましたが、あえての演出ですか。

岩合:正直に言っちゃっていいのかな?(笑)。じつはあれは写真しかないんです。あのとき、ムービーカメラの組み立てに時間がかかっていて、少しでも長く牧場にいたいと、先にスチールカメラだけ持って行ったら、あの喧嘩に遭遇したんですよ。ムービーをまわしていなかったからこそ撮れた写真ですね。

──写真家として、ムービーを撮っているときに、スチールで撮りたくなることは?

岩合:それはもちろんたくさんありますよ(笑)。でも、ああいうアクションが起きたときには、とても両方一緒には撮れない。ムービーだけになっちゃいますね。

──岩合さんがぜひ見てほしい、という場面を教えてください。

岩合:どこもおいしいですよ、って蕎麦屋みたいか(笑)。個人的には、ケガをして姿を見せなくなっていたヒメというメスが帰ってきた場面ですね。あのときは感動しました。写真でもテレビ番組でも同じなんですが、見てくださった方の反応がいいのは、ずばり、僕自身の心が動いたところなんです。カメラってすごく不思議だなって思うんですけど、僕が感動したことは見てくださる方に絶対に通じるんですよ。やっぱり、映像でも写真でも、何か自分の琴線に触れたことがなければ伝わらないんだ、と実感しますね。

 登場するたちはみな愛くるしいが、それだけではない。「あるがまま」の姿をとらえた、動物写真家だからこその視点を楽しみたい。(編集部・伏見美雪)

AERA 2021年1月18日号