──まず家族と愛というテーマが頭にあったということですね。北海道の牧場を選んだ理由は?

岩合:日本全国で、の家族がいるところやメスが出産しそうなところを探してもらったんですが、ここだというところがなかなか見つからなかったんです。もう間に合わないと焦っていた19年の夏、たまたま雑誌の取材で訪れた北海道で、たくさん猫がいる牧場があると教えていただいて。行ってみたら、牛舎で何匹もの子猫たちが複数の母猫からおっぱいをもらっていた。共同保育をしていたんです。これは面白いな、ここだったらミャンマーとは違うかたちの猫の家族が撮れるんじゃないか、と思いました。あの牧場がなかったら、映画はできなかった。本当に運命的な出会いでしたね。

■猫が泳ぐというめずらしい場面も

──映画にはいくつも印象的な場面がありますが、そのひとつがミャンマーの猫たちが泳ぐシーンだと思います。一般的に、猫は水を嫌うと言われていますし、世界各国で猫を撮影されている岩合さんにとってさえも、泳ぐ姿はめずらしいとか。

岩合:うん、めずらしいですよ。ご主人に「よく泳ぐよ」と聞いて、絶対に映画に入れよう、と思いましたから。湖の上の家ですし、雨季になれば水かさが増して家の前の地面がなくなるので、猫にとって泳ぎは必要不可欠なんです。繁殖のためには、家に閉じこもっているわけにいきませんから。オスが泳いでメスに会いに行くんだそうです。

──母猫が泳ぎを教える場面もありましたが、あれは子猫にとって初めての挑戦ですか?

岩合:少なくとも僕らの前ではあのときがファーストトライでした。無事に泳げてほっとしましたね。その前に、シュエという名のメスの子猫が水に落ちて必死で泳ぐ場面がありますが、あれはまったくの初めてです。生後1カ月半くらいでしょうか。

──シュエが落下した瞬間、岩合さんの「あ、落ちた」という声が入っていました。ほかにも何カ所か、咄嗟に漏れ出た声のように感じられた場面がありましたが。

岩合:あれは現場音です。カメラに二つマイクがついていて、僕の声も同時に拾っているんですよ。僕は役者じゃないんで、ナレーションでは、とてもそんなうまく声はかけられない(笑)。ちなみに、この映画でいちばん僕の現場コメントが利いているねと言われるのが、「逃げた」という言葉です。ある予想外の出来事に遭遇したときに思わず口に出てしまったんですよ。どの場面か探してみてください。

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