「コロナウイルスは気温が下がれば生存しやすい状況になるので、寒さも感染拡大の要因になるでしょう。気温が下がれば、単純に換気が難しくなるという状況も生まれやすくなるので、その影響も考えられます」

 乾燥については、10月に公表されたこんな実験結果もある。理化学研究所がスーパーコンピューター「富岳」を使って行った実験では、部屋の湿度によって飛沫の拡散の仕方が変わった。湿度が低いほど飛沫は遠くへ飛ぶのだという。例えば、加湿が十分でないうえに、冬場に部屋の温度をどんどん上げていくとどうなるか。

「ウイルスは人の口から飛沫として出る時、周りを水分に包まれた状態にありますが、水分が蒸発して飛沫がより小さなサイズとなることで、浮遊しやすい状況が生まれます。1、2メートルのソーシャルディスタンスでは足りないとされています」(塚本教授)

■高気密住宅の誤解

 札幌医科大学の横田伸一教授(微生物学)も、道内の状況に危機感を募らせている。道内では、感染者が急増したことで医療機関や保健所の対応が混乱し始めているといい、横田教授は「恐れていた事態がかなり速いスピードで訪れている。感染経路を追えない人も増えていて、状況としては厳しいと言わざるを得ません」と現状認識を示す。ただ、冬場の特有の寒さや乾燥による影響は、そこまで大きくないとみている。

「あくまで要因の一つであって、ここまで北海道で感染が増えたのは、人の動きが活発になったり、さまざまな規制の緩和、検査の拡充だったりと、すべてが複雑に絡み合っていると考えられます。状況を変えるには、一人一人の行動を変えるしかありません」(横田教授)

 寒冷地特有の要因として、北海道や東北などでは導入が比較的進んでいるという「高断熱高気密」の住宅はどうだろうか。「高気密」というと、外気を入れないための密閉した住宅を勝手にイメージしてしまうが、札幌市立大学の齊藤雅也教授(建築環境学)に話を聞くと、その考えは誤っているという。

「よく誤解されるのですが、高気密な住宅とは、意図しないすきま風を極力抑える一方で、給気から排気までの換気経路が明確な住宅です。『気密性が良い』とは、『外から必要な新鮮空気を計画的に取り入れつつ、室内の暖かさを保つ』と言い換えることができます」

 齊藤教授によれば、高断熱高気密の住宅は、窓開け換気によって室温が一時的に下がったとしても、暖房を使っていれば一般の住宅よりも元の室温に早く戻るという。高断熱でなければ、窓開け換気をすると部屋がなかなか暖まらないということだ。ということは、高断熱高気密の住宅は、直接的には感染症の広がりを抑えるのに影響するものではないが、少なくとも予防策の一つとなる「換気」という行動を促すうえで、むしろ利点があるようだ。(編集部・小田健司)

AERA 2020年11月23日号より抜粋