大西さんは、理由は「生活保護は現状に合っていないからだ」と指摘する。

「まず、扶養照会です。生活保護を申請すると家族に援助は可能かどうか扶養照会が行われますが、家族との関係が悪いとそれが嫌で申請をためらう人は少なくありません。さらに、車の所有についても厳しい条件があります。扶養照会は意味がないのでやめ、車は特に地方では重要な『足』となっているので所有は認めるべきです」

■声を上げづらい社会に

 また、窓口での申請手続きが複雑で、セーフティーネットの網からこぼれ落ちる人も少なくない。生活保護や貸し付け等の申請のオンライン化を進めていくことが求められるという。そしていま住む場所がない人には、すぐアパートに入れるようにする必要があると説く。

「しかも3畳で相部屋、風呂なし、トイレは共同のような劣悪な物件ではなく、個人のプライバシーが守られる質の高い部屋が求められます」(大西さん)

 菅義偉首相は目指す社会像の最初に「自助」を掲げ、「自分でできることは、まずは自分でやってみる」と打ち出した。しかし、と大西さんは力を込めた。

「すでにみんな頑張っています。『まずは自分』が強調されると自己責任に重きを置く社会になり、社会的に立場の弱い人々が声を上げづらくなる。ホームレス対策でまず必要なのは『公助』です。生活が安定して初めて努力や個々の頑張りができます。自助努力だけを優先する対策では、何も解決できません」

(編集部・野村昌二)

AERA 2020年11月16日号より抜粋

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら