今年、履歴書の性別欄や顔写真の提出を廃止する企業が相次いだ。7月には文具メーカーが履歴書を作る際に参考にするJIS規格も性別欄を削除。女性も、エントリーフォームから性別欄を削除するよう会社に提案したが、経営陣の間では議論すらされなかったという。

「男性は外で働き、女性は家庭を守る」という性別役割分担をめぐる、2019年度の内閣府の世論調査では、6割が「反対」と回答。しかし、女性たちは家庭内で求められてきた「ケア労働」を職場でも強いられている。

 お茶くみはもちろん、差し入れのお菓子をいかに素早く取り分けて配るかを女性たちが競い、少しでも出遅れると「女子力がない」などと責められる──。会社員女性(46)は経理の経験を買われて転職したはずだったのに、とため息をつく。

 こうした実情に「女性たちが進んでやっているのだから問題ない」という声もある。だが、東北学院大の小宮友根准教授(ジェンダー論)は「実態として、やりたい人がやることになっていないのが問題」と指摘する。

■実際は選べない選択肢

「やらなければ否定的に評価されるので、やらないという選択肢が実際には選びにくい。育児も同じ。女性がやって当然とされ、やらなければ非難される可能性があるのに、男性はやらなくても非難されにくい。逆に女性と同程度の育休を取ろうとすれば、評価が下がったりする。形式的に選べるのと実質的に選べるのは大きな違いです。本来選びたくないのに選ばされている人がいるなら社会として改善すべきでしょう」

 メディア業界で働く女性(34)のケースもそうした一例だ。夫の職場は、独身か妻は専業主婦かパートという男性ばかり。「男は目いっぱい働くのが当然」という価値観が支配的だ。その中で夫は育休を取得し、復帰後も妻と育児を分担。仕事の負担を減らしてほしいという要請は無視され、「過労死が心配なレベル」で働くしか選択肢がない。女性自身は泊まり勤務や残業は免除され、子どもが病気の時にも休みやすいが、内心は複雑だ。

「同じ職場で、同世代、しかも同い年の子を持つ男性社員は夫と同じく、これまで以上にハードな業務をやらされています」

 ジェンダー観は人それぞれ。だが自分の中の刷り込みが、職場で他人に犠牲を強いている可能性もあることを認識する必要がある。まだジェンダー平等のスタートラインにすら立っていない職場は少なくない。(編集部・石臥薫子)

AERA 2020年11月2日号より抜粋