たとえばソーシャルディスタンスが奨励されたり、職場での飲み会などが制限され自宅に早く帰るようになったりしたことを例にとっても、濃密な人間関係こそ良しとする価値観が崩れ、「人とは距離をとってもいい」という価値観が容認されたとも言える。いわば「ひきこもりの人たちが大切にしてきた文化のほうに社会がシフトしてきた」ととらえることもできる、と長谷川さんは言う。

「そもそも、社会の価値観が『ひきこもりは外出すべきだし、働くことがゴール』であるということは、社会が間接的に、ひきこもり本人に暴力を働いていることにもなります」

 多くの人が今回、長時間会社にいなくても、自宅でも自分なりの働き方ができると気づいた。それと同様に、これまで「正解」とされた生き方だけが解ではないと社会が気づいた。長谷川さんはこう提案する。

「ひきこもっている本人に『問題』があるから、本人がそれを克服していくというストーリーを、社会が手放すこと。このコロナ禍での疑似体験を機に、社会のほうが発想を変えてみることも、大切なことだと思います」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2020年10月19日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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