
AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
社会学者・古市憲寿さんによる小説『アスク・ミー・ホワイ』が刊行された。ドラッグやセクシュアリティーの問題も織り込まれた、純度の高いラブストーリーだ。著者の古市さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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年甲斐もなく、ドキドキさせられてしまった。社会学者にして2度の芥川賞候補に挙がった古市憲寿さん(35)の新作は、かなり純度の高い情熱的なラブストーリーだ。今年4月からツイッターで発表してきたものをまとめた。
「コロナの流行で本屋にも行きにくいなか、読んでもらえる手段はなにか、と考えました。反応がダイレクトに来るおもしろさもありましたね」
執筆の動機は2018年、友人を訪ねてアムステルダムを旅したことだ。世界中からユニークな若者が集まる街を舞台にしたいと構想を練った。
物語の主人公はアムステルダムで冴えない日々を送る青年ヤマト。ある日、彼は日本から来た“港くん”に出会う。彼は薬物使用疑惑とセクシュアリティーにまつわる報道で引退した俳優だった。現実の人物をリアルに想起させるが、
「特定のモデルがいるというよりも、表舞台から消えざるを得なかった人たちが、今も幸せだといいなと思いながら書きました。ただモデルについてあれこれ言ってもらえるのは嬉しいです。読者が『誰か』を思い出してくれたということなので」
実在のブランド名や人物名など固有名詞を意図的に盛り込み“いま”を描く。自身がメディアで見せるクールなキャラクターと、小説におけるギャップも作家・古市憲寿の魅力の一つだ。
「あまりエモーションでは書いてないんです。冷静に客観的に『この2人が出会ったら、こうなるだろうな』という感じ。それより頭を使うのはテーマです。今回はドラッグやセクシュアリティーの問題。ドラッグは絶対に悪なのか? 同性愛と異性愛は完璧に分けられるものなのか? その間にあるグラデーションをどう物語に落とし込むかに苦心します」