性別を超えて港くんという“個”に引かれていくヤマトの行動は多様化する現代の性を鮮明に映し出している。『平成くん、さようなら』では安楽死問題を扱った。社会学者の目は時代の空気を的確に捉え、常に少し先の未来を見据える。

「答えの出しにくい問題などテーマによって論文よりも物語のほうが伝わりやすいと思うものを小説にしています。それに学者の視点は長期的には大事だけれど『いま、その言葉が誰かを救うか』を考えると心許ない。この時代にいま自分に何ができるのかと考えたとき、やさしい話を書きたいと思ったんです。コロナがなければ、結末も違ったかもしれません」

(フリーランス記者・中村千晶)

■東京堂書店の竹田学さんオススメの一冊

『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』は、自分を守る助けとなる人生の副読本。東京堂書店の竹田学さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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「あなたのためを思って言っているんだよ」「これは差別ではなく区別」。責任逃れや、思い込みと偏見に満ち、差別につながる「ずるい言葉」。社会学者の著者は子どもに身近な話題をとりあげ、こうした言葉のどこが問題かを論理的に解きほぐし、読者とともに批判的に考え、具体的に反論する言葉と姿勢を導き出す。

 本書は子どもにとっては、大人や自分より強い者の理不尽で不条理な言葉に丸め込まれず、自分を守る助けとなる人生の副読本だ。関連用語解説やコラムも充実し、より広い学びに開かれている。そして大人にとっては、自らの偏見や差別意識に気づき、人を傷つけ、支配しない接し方・生き方を見つめ直すことができる反省と自己解放の啓蒙書である。言葉は人を傷つけ縛りもするが、励まし自由にすることもできる。巻末付録の記録ノートも有効活用したい。

AERA 2020年10月12日号