福島県の佐藤雄平知事(当時)は10年2月、プルサーマル実施の前に、国に耐震安全性の確認を求めた。保安院の森山善範審議官(当時)は同年3月24日、部下にこんなメールを送っている。

「耐震安全性の確認では、貞観の地震による津波評価が最大の不確定要素である旨、院長、次長、黒木(慎一)審議官に話しておきました」「福島は、敷地があまり高くなく、もともと津波に対しては注意が必要な地点だが、貞観の地震は敷地高を大きく超えるおそれがある」「貞観の地震について検討が進んでいる中で、はたして津波に対して評価せずにすむのかは疑問」

■開示請求「3年かかる」

 森山審議官はメールについて検察にこう説明していたことが、19年に明らかになった。

「貞観地震について審議が活発化すれば、10年8月に予定していたプルサーマル実施までに審議が終了せず、プルサーマルを推進する立場の資源エネルギー庁などから非難される可能性がありました」

 仙台高裁は、「喫緊の対策措置を講じなければならなくなる可能性を認識しながら、そうなった場合の影響の大きさを恐れるあまり、そのような試算自体を避け、あるいはそのような試算結果が公になることを避けようとしていたものと認めざるを得ない」と判断した。

 かつて九州大学副学長を務め、事故調の委員だった故・吉岡斉氏は、こう話していた。

「他の政府審議会と同様、事故調は役人主導。事務局が用意した文案にもとづいて検討する」「霞が関官僚に対して甘い傾向がある。政府が設置することの問題点はここに現れた」

「加害者」である国の調査報告では、まだ隠されたままの事実もあるだろう。事故調が集めた文書リストの中から、疑わしい文書約60点の追加開示を7月に請求すると、「開示は3年後になる」と内閣府から通知がきた。「著しく大量である」「担当部局において、請求事案が多数ある」などの理由だった。

 最高裁で決着がつくまで、不利な情報は隠し通すつもりなのだろうか。(ジャーナリスト・添田孝史) 

AERA 2020年10月12日号より抜粋