■口元の動きを見せる

 東京都江東区の東大島駅前保育園の園長(46)も、乳児が「もぐもぐ」できなくなることを心配している。

「0歳児は、『もぐもぐ』という言葉の意味もまだわかりません。言葉を聞くだけでなく、口の動きを見て、大人のまねをしながら覚えていきます。感染対策をしなければならないけれど、口元は見せてあげたいと思っていました」

 そこで、この園では、食事や読み聞かせのときに限って、マスクを外してフェイスシールドを着けることにした。

「表情や笑顔が格段に伝わりやすくなりました」

 新型コロナウイルス感染症は、国内でも世界的にもいまだ終息の兆しは見えない。保育と新型コロナウイルスの感染対策をどう両立させるかは、保育の現場にとって大きな課題だ。

 対策の方針は自治体によってさまざまで、結局は園が独自に判断していくことになる。子どもになるべく1人遊びをさせたり、散歩やプールを中止したりした園もあったと聞くが、関係者の話では、「これでよかったのか」と自問自答が続いているようだ。

 どこまで感染対策が必要なのか、見えづらい状況のため、子どもより親の方が混乱している面もある。東京都世田谷区の上町しぜんの国保育園の青山誠園長は言う。

「『きちんと対策した』という大人のリスクマネジメントの意味合いが大きいのではないか。教育の場は、育つ子どもを主体に考えるべきでは」

■家庭でできることは

 保育士の経験がある、医学博士の東京家政大学の細井香准教授(乳児保育)はこう提案する。

「マスクで表情がわかりにくいなら、『グッド』と言って腕で大きな丸を作るなどジェスチャーをつけると伝わりやすくなるでしょう。フェイスシールドやマウスシールドは、飛沫を完全には防げないかもしれませんが、食事や口元を見せたいときなどに使うといいと思います。口元が見えれば、発音の難しい『あ』と『お』の口の形が違うことも伝えられます」

 アクリル板などで仕切りをすれば、口元を見せて絵本の読み聞かせをすることもできる。

 家庭でも、子どものためにできることはたくさんあるという。細井准教授のおすすめは、着替えやミルクを飲ませるときに頻繁(ひんぱん)に呼びかけたり、ベビーマッサージや抱っこで触れ合ったりすることだ。

『乳児期の親と子の絆をめぐって』の著書がある、しぶいこどもクリニック(東京都大田区)の渋井展子(ひろこ)院長(昭和大学医学部小児科客員教授)もこうアドバイスする。

「家に一緒にいる時間に、子どもに言葉のシャワーを浴びせましょう。できるだけ子どもの思いや欲求に応えて、安心させてあげてください。それが子どもの成長につながり、自分を励ますことができるようになると思います」

(ライター・井上有紀子)

AERA 2020年10月5日号より抜粋