例えば、高知県南部の太平洋側の室戸岬周辺で1日200ミリ近く降っても、大きな被害にはならないだろうという。この地域にとっては毎年何回も降る程度の雨だからだ。

 しかし、と牛山教授は続ける。

「室戸岬から100キロ程度の瀬戸内の高松市付近であれば、1日200ミリ近い雨は数年に1回程度しか降らない規模の雨ですから、何らかの被害が起こるかもしれません」

 今年の台風上陸数はいまだゼロ件。しかし、前出の片山さんは、まだまだ台風への注意を怠ってはいけないと警鐘を鳴らす。

「今年は海面水温が平年より上昇していますから、水蒸気が多く台風が発達しやすい環境にあります」

■10月中旬までは備えを

 しかも、秋になると高気圧が日本列島から遠ざかるため、台風が日本列島に上陸する可能性は高くなるという。昨年の台風19号を始め、17年に日本列島を直撃した「超大型」の台風21号など、いずれも上陸したのは10月だった。片山さんは「海面水温次第」と断った上でこう話す。

「10月中旬くらいまでは、台風に備えることが大切です」

 暴風、大雨、高潮、土砂災害など、台風は様々な災害を引き起こす。牛山教授の調査では、風水害による犠牲者の半数は屋外で遭難していた。1999~2018年の間に、風水害による死者・行方不明者1259人が遭難した場所を調べたところ、屋外で犠牲になった人は約47%だった。土砂災害については約82%が屋内で遭難しているが、洪水など水関連犠牲者は約71%が屋外、風や波の関係でも約79%が屋外で遭難している。

 風水害での犠牲者と言うと、避難せずに自宅で亡くなるというイメージがあるかもしれないが、実は屋外でもかなり発生しているのだ。牛山教授は言う。

「しかし、そうかと言って、災害時に家の外に避難するなということではありません。ただ、台風が迫ってきている時に無理に屋外で行動するのは危険です。まずはハザードマップ等で自宅や生活圏でどのような災害が起こりうるかを知っておくことが必要。避難の必要がある場所なら、その上で、個々の状況に応じて多様な避難のあり方を考えておくことが重要でしょう」

 日頃の備えに勝る防災策はない。台風の発生が落ち着いている間に、しっかり確認したい。(編集部・野村昌二)

AERA 2020年9月28日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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