「それより中心から数百キロ離れた場所で雨雲が発達し大雨となり、被害が生じるケースは珍しくありません。大きな台風では、台風の中心から離れていても強風が吹くことがあります」

 つまり台風の情報は「中心位置」ばかりでなく、面的に見てどこで危険が高まっているのかを知るのが重要だと話す。

■過去には甚大な被害も

「かつて、天気図くらいしかなかった時代には、台風の『中心位置』はほぼ唯一と言ってもいい重要な情報だったかもしれません。しかし現代は、インターネットなどで様々な情報を活用することができます。台風の中心位置という限定的な『点』情報ばかりに目を向けるのではなく、どこで強く雨が降りそうなのか、風はいつごろ強くなりそうなのかといった、現代だからこそ得られる『面』の情報を活用すべきです」(牛山教授)

 近年、予想もつかない豪雨災害が増え、強い台風が日本列島を襲うようになったように思える。だがしかし、台風による被害は、過去と比較して激減しているのだ。

 死者・行方不明者が3千人を超えた室戸台風(1934年)など、戦後の1950年代までは、一度の台風で数千人が亡くなることは珍しくなかった。戦後、最大の台風による被害は、59年に紀伊半島に上陸した伊勢湾台風。死者・行方不明者は5千人を超え、全壊・半壊・一部損壊の「住家損壊・流失」は約83万棟に上った。しかしそれが、伊勢湾台風以降、被害は劇的に減っている。

 2000年以降を見ると、死者・行方不明者が最も多かった台風は、04年10月に日本列島を縦断した台風23号と、近畿地方を中心に記録的豪雨をもたらした11年9月の台風12号で、ともに98人。住家損壊・流失は19年10月の台風19号で約6万7千棟だった。人的被害は伊勢湾台風の約50分の1、建物被害は約12分の1だ。ここまで犠牲者や家屋被害が激減したのはなぜか。

■ハードとソフトの向上

 先の牛山教授は因果関係の立証は困難として、こう語る。

「例えば、局所的な地域で、毎年のように川が氾濫していた場所に堤防をつくれば家屋の浸水が激減したというハード面の効果は明瞭です。あるいは、予測精度の向上などソフト面での影響も考えられます。しかし、日本全国で見て被害が減っているとなった場合、ハードとソフトの積み重ねの結果という可能性は高いと言えますが、何がどのように効いたのかという断定はできません」

 また、台風の大きさと被害の規模は必ずしも直結しないと牛山教授は言う。

「仮に、全く同じ規模の台風が来たとしても、それがどこに上陸し、どのルートを通るかによって影響は全く違います。また、雨による被害は単純な雨量ではなく、その地域にとって多くの雨量なのかが関係します」

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