「文章は読んでくれた方に届いたかどうか、感想を聞くまでわかりません。絵は描いたものがそのまま見てもらえるのが良いですね。絵を描くとき、お道具やお菓子、茶花をじっと見て、好きなところを見つけます。『ここが素敵』と自分が感じたこと、ディテールを大事に表現したいんです」

『日日是好日』の映画で、故樹木希林さんが演じたお茶の師匠のモデルの武田先生は健在で、森下さんは変わらず稽古に通っている。

「先生のおかげで、素晴らしいお道具をたくさん拝見しましたが、私自身は道具をほとんど持っていないんですよ。自分が感じた『好き』が絵で表現できれば、私にとっては『自分のもの』になったということ。心の中に気持ちが残っていることが大切なんです」

 読んでいると、隣に森下さんがいて「ね、いいでしょ?」と語りかけてくれるよう。季節を五感で感じ、その移ろいを慈しむ──森下さんの見方を体感できる本だ。

(ライター・矢内裕子)

■リブロの野上由人さんオススメの一冊

 憲法学者である著者による『戦争と法』は、“長谷部立憲主義的平和論”の決定版とも言える一冊。リブロの野上由人さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 著者は、法哲学の井上達夫が「修正主義的護憲派」と批判的に呼ぶ学説を理論的に支える憲法学者。2015年、安保法制審議中の国会で、自民党推薦の参考人でありながら、個別的自衛権は合憲だが集団的自衛権は違憲だと主張し注目された。

 一切の武力行使を認めない絶対平和主義と、集団的自衛権まで合憲と考える解釈改憲の両方を退ける。憲法9条は自国が攻撃を受けた場合に武力でそれを撃退することまで否定する非常識な規定ではないとしたうえで、集団的自衛権を憲法で否定する合理的な自己拘束を支持する。「限定された正戦論」「穏和な平和主義」と自ら名付けるこの論理の背後にある戦争違法化の世界史、人類が深刻な価値観の対立を乗り越えるために積み上げてきた知の(法の)歴史を解説する。本書は、長谷部立憲主義的平和論の決定版だ。

AERA 2020年9月21日号