■コロナの不安がより安定を求める

──安倍政権の問題点も検証されないまま、安定を望むというだけで継承が重視されていいのでしょうか。

池上:混乱より安定という意味で、国民も今のところ菅さんを歓迎しているようです。これらの現象を見ていると、こういう国民の意識があったからこそ自民党は長期に続いてきたんだなっていうのが見えてきます。こういうことをやってるから、どんどんゆでガエルになって日本はダメになっていく。じゃあその代わりにオルタナティブな選択肢があるのかっていうことになると、選択肢がないから、仕方なしに消極的にこうなる。コロナによって不安になっているときに変えないほうがいいよっていう、そういう意識によって支えられているんだろうなって思うわけですね。

佐藤:ある種の脅迫ですよね、これは。俺たちが辞めてもいいのか。混乱が残るぞ、それでもいいのならと。

池上:菅政権になった時って、巨人ファンに言わせれば「長嶋茂雄がいない長嶋巨人」なんですよ。長嶋茂雄が監督になったとたん、巨人は最下位に落ちるわけですね。私の好きな例で言えば、山本浩二なき広島カープです。山本浩二が監督になっちゃうと、選手に山本浩二がいないものですから、じり貧になっていくという。

 菅さんが官房長官だから、いろんなことが成り立っていたり、スキャンダルを無理やり封じ込めたりということができていた。今度はそれを支える官房長官が誰か。菅さんほどの人間がいないことによって、非常に菅内閣っていうのは不安定になるんじゃないかなと思います。

佐藤:私は菅さんがスキャンダルなどのいろんなものを封じ込めていたっていうのが実像なのかって思っているんですね。その点においては、内閣特別顧問の北村滋氏の存在が大きいと思うんです。でも、その動きが菅さんの陰で見えていなかった。北村さんは次の政権でもたぶん残留すると思うんです。国家安全保障局長だけどインテリジェンスも政権の防衛もやる。菅さんがいなくなったことで、それが見えるようになってくる。そうすると政治家や官僚の嫉妬を買いやすくなる。これが結構大変かもしれないですね。

(構成/編集部・三島恵美子)

※記事の続きは「AERA 2020年9月21日号」でご覧いただけます。