佐藤:僕はね、安倍さん、よく頑張ったと思いますよ。これ皮肉じゃなくて。辞めたいと言っても辞めさせてもらえないような状況が続いていましたから。総理大臣になるのは簡単じゃないけど、辞めるのはもっと簡単じゃないんです。主体はシステムですから。システムが辞めることを簡単に許してくれないんですよね。

 ただそのシステムが、どういう方向へ向かっているのか。もっと端的にいうと戦争に向かっているのか、それとも戦争の阻止に向かっているシステムなのか。格差を拡大している方向に向かっているのか、縮小に向かっているシステムなのか。それが曖昧模糊としていて見えない。だから、安倍政権とは何だったのかと一言でいった場合に、なかなか説明できないんです。

池上:なるほど。国内に関していうと、例えば最初のアベノミクスの三本の矢っていうのがあったでしょう。黒田東彦・日銀総裁に、大量にお札を刷らせて、それによってとにかく金利を下げ、あるいは円安に持っていくという。とりあえず結果は出ましたが、その後の新しい三本の矢についてはみんな覚えてない。さらには女性活用社会をやろうとしましたが、「いやいや女性活用ってまずいよ、活躍にしようよ」っていって女性活躍社会を提言しました。

佐藤:何か撤退を転進と言い換えるみたいな感じですね。

池上:そうですね。そうしたら今度は、「いやいや、高齢者も働かせなきゃいけない」って、一億総活躍社会。「一億火の玉」ってありましたけど、今どき一億かよって。一億火の玉って言っていたころは、日本の人口は1億人いなかったんですが、一億総活躍社会の時の人口は、1億2700万人です。

佐藤:2700万人見捨てるっていうことに取られかねないですよね。

池上:そうそう。安倍政権は、このように次々に新しいスローガンを打ち出すんですよ。それによって前のスローガンがどうなったかっていうことを、いつの間にか忘れてしまう。国民に忘れさせて、常に何か新しいことに挑戦している、やっている感というのを非常にうまく打ち出していました。最初の三本の矢以降のことは全く検証されないまま、今に来ているんです。

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