インドネシアのバンドのイックバル(写真提供_ハヤブサランディングス)
インドネシアのバンドのイックバル(写真提供_ハヤブサランディングス)
アルバム『コーズ&メロディーズ』のジャケット(写真提供_ハヤブサランディングス)
アルバム『コーズ&メロディーズ』のジャケット(写真提供_ハヤブサランディングス)

 近年の東南アジアには注目すべきインディーバンドや、アーティストが多い。中でもインドネシアのバンドのイックバルは、日本の音楽へのリスペクトあふれる作品で、幅広く人気を集めている。

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 山下達郎「クリスマス・イブ」や「高気圧ガール」、tofubeats「水星」など……。彼らがこれまでに公開した日本のポップスのカバー曲は多く、今も動画サイトなどインターネット上で聴かれている。ここ10年ほどの間に急速に再評価されている日本のシティポップを、彼らは決して奇をてらうわけではなく、愛情たっぷりに取り上げてきたのだ。加えて、tofubeatsを輩出した日本のネットレーベル「Maltine Records」から作品を出したり、RYUTist、Especia、フィロソフィーのダンスなど日本人アーティストやアイドルとコラボレートしたり。そんなことから、とりわけ日本にはイックバルにシンパシーを感じているリスナーは多い。来日公演も数多く実施されてきた。

 2014年に発表されたファーストアルバム「Amusement Park」は、11年に結成した彼らの原点とも言える1枚だが、先ごろCDでリリースされたセカンドアルバム『コーズ&メロディーズ』は、バンドとしての進化が感じられる力作だ。美しくなめらかなメロディーと清涼感ある音作りに、丁寧に時間をかけて向き合う彼らのひたむきさが伝わってくる。

 リーダーでソングライターのムハンマド・イックバルの名前「Iqbal」のローマ字表記「Ikkubaru」をバンド名にしているように、彼らは最初から日本を含めてさまざまな国のリスナーに曲を届けようとする開かれたポップ・グループだった。そして多くの経験を積み、この6年ほどの間でバンドとしての底力が静かに厚みを増しているように思える。

 アルバムは、きらびやかな音色に包まれた「1986」という曲で幕を開ける。彼らのルーツが80年代のポップスにあることを改めて伝えるような曲名だ。実際、2曲目「Tik Tok」以降も都会的な風合いのグルーブ感ある演奏と、ソウルフルなボーカルがリスナーを引きつける。山下達郎や角松敏生などの音楽に影響を受けた彼らの真骨頂とも思える仕上がりになっている。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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