まずは開発が成功しなければ元も子もないが、感染症のワクチン開発にはそもそも特有の壁がある。感染の流行は、地域性や季節性などの変動要因から、治験を進めにくい面がある。日本製薬工業協会は「日本のみならず、事業性の側面からも見通しが立てにくい感染症領域は非常に取り組みにくい領域」としている。

 しかし、各国では次々と開発が進む。

 世界保健機関(WHO)の発表によれば、世界では8月25日現在で31種類が人に投与する治験に入っており、142種類が治験前の段階にある。英オックスフォード大と英製薬大手アストラゼネカが開発中の「ウイルスベクターワクチン」など6種類が、1万人以上で発症や重症化を防ぐ効果をみる第3相試験に入っているという。

■異例のスピードで治験

 前出の岡田教授は、中でも「核酸ワクチン」と呼ばれる新しい種類のワクチンに注目する。

「今回はウイルスのDNA配列が早く公開されました。核酸ワクチンは、そのDNAを使って人にとっては異物である『スパイクたんぱく質』を体内に発現させて、免疫を作ります。従来のワクチンはウイルスそのものを5~10年かけて不活化したり弱毒化したりしていましたので、今回は極めて異例なスピードで治験に入っています」

 日本国内で最初に治験が始まり、製薬企業アンジェス(大阪府)と大阪大が共同開発する「DNAワクチン」もその一つだ。ほかには、塩野義製薬が国立感染症研究所と共同開発する「組み換えたんぱくワクチン」、KMバイオロジクス(本市)が東京大学医科学研究所などと進める「不活化ワクチン」などの候補がある。(編集部・小田健司)

AERA 2020年9月7日号抜粋