また、英国の国民保健サービスのデータベースに登録された新型コロナウイルス患者999人の解析では、グリシンに変異したウイルスに感染していた患者の方が、のどの奥などから採取した検体に、より多くのウイルスが含まれていたとみられるという。つまり、グリシンに変異したウイルスの方が、体内で増えやすいと考えられる。

 似たような実験結果が、米スクリプス研究所の研究チームや、米ノースウェスタン大学の研究チームからも発表されている。

 英保健省など英国内の複数の組織や大学、研究所などによる「COVID‐19 ゲノミクスUKコンソーシアム」は、英国内の感染者2万5千人以上のウイルスの解析結果や集団感染状況の分析などから、1人の感染者から何人が感染するかを意味する基本再生産数(R0)を推計した。Sたんぱく質の614番目のアミノ酸がアスパラギン酸のウイルスでは3.1なのが、グリシンに変化したウイルスでは4.0と、やはりグリシンに変化した方が感染力が強いという結論だった。

 コロナウイルスに詳しい東京農工大学の水谷哲也・国際家畜感染症防疫研究教育センター長はこう言う。

「複数の研究から、D614G変異により、新型コロナウイルスの感染力が高まっていると言えるだろう。それが、世界各地での感染拡大の一因になっていると考えられる」

 一方、新型コロナウイルスに感染するとより重症化しやすいという病原性の高まりを示すような変異は、これまでのところまだ報告がない。「D614G」変異を調べた米ロスアラモス国立研究所の研究チームやUKコンソーシアムなども、病原性には変化はみられないとしている。

 ただし、病原性が変化していないとも結論づけられず、病原性の変化は現時点では不明だ。

 流行が終息していない時点で病原性を評価するのは難しい。時間とともに治療に関する知識が蓄積され、使える治療薬も少しずつ増えてくるので、回復する患者の比率が増えても、それが病原性が弱まったためとは限らない。医療体制に余裕があるかどうかによっても、治療結果は変わってくる。

次のページ