映画は決して悲愴な物語ではない。父との間にあった絆、まぶしい日々を回想しながら、主人公はトラウマを乗り越え、新たな一歩を踏み出す。さらに特筆すべきは、12歳の主人公を演じるノア・ジュプの輝きだ。10歳から子役として活動し、いま最も旬な15歳。同じ子役出身だが、ラブーフの環境とは異なり、休憩時間も両親に見守られ、家庭教師と二次方程式の問題に取り組んでいた。共演者たちは彼のことを「現場で最も成熟した人物」と呼んでいたそうだ。

「ノアはすべてをきちんと理解することができる、今後の数十年を担う俳優だと思う」

◎「ハニーボーイ」
12歳の子役スター時代をノア・ジュプが、22歳の彼をルーカス・ヘッジズが演じる。8月7日から順次公開

■もう1本おすすめDVD「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」

 シャイア・ラブーフが超大作「トランスフォーマー」シリーズで最初に主人公を演じたのは21歳の時。「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」(2008年)でハリソン・フォード、「ウォール・ストリート」(10年)でマイケル・ダグラスと、20代はどこか「父」的存在の大俳優との共演も多かった。

 私生活ではさまざまなトラブルも起こしたが、近年の演技には目を見張るものがある。

「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」(17年)では実在のテニスプレーヤー、ジョン・マッケンローを演じている。

 1980年、クールな“氷の男”こと王者ボルグと、キレやすく「悪童」と呼ばれたマッケンローの伝説のウィンブルドン決勝戦を描いた作品だ。筆者もリアルタイムで観た試合を迫力満点に再現している点もすごいが、トップにのぼりつめた人間の苦しみやプレッシャーとの闘いなど精神面が深く描き込まれ、見応えがある。ラブーフはマッケンローに多くの共通点を見いだし、大幅な減量と過酷なトレーニングで役に挑んだという。

 もう一本、もうすぐ発売となる「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」の彼も素晴らしいので、ぜひ観てほしい。

◎「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」
発売・販売元:ギャガ
価格1143円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 020年8月10日-17日合併号