大泉生協病院内に設けられた発熱外来の入り口。一般の人が出入りする場所とを間仕切りやビニールで分けている(撮影/井上有紀子)
大泉生協病院内に設けられた発熱外来の入り口。一般の人が出入りする場所とを間仕切りやビニールで分けている(撮影/井上有紀子)
7月15日、ストライキをした経緯を話す船橋二和病院労働組合の柳澤裕子書記長(右)と組合員の関口麻理子さん。「もう我慢できなかった」と話した(撮影/井上有紀子)
7月15日、ストライキをした経緯を話す船橋二和病院労働組合の柳澤裕子書記長(右)と組合員の関口麻理子さん。「もう我慢できなかった」と話した(撮影/井上有紀子)

「医療体制は逼迫していない」。そう国は繰り返すが、新型コロナウイルスに対応する病院の減収が相次いでいる。AERA 2020年7月27日号から。

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 東京都練馬区の大泉生協病院では、3月、発熱したなど新型コロナ感染が疑われる人がまず受診する「発熱外来」をはじめた。齋藤文洋院長(57)は「発熱外来も丁寧にやればやるだけ、コストがかかります」と話す。

 PCR検査の判定がない“コロナ疑い”の状態では、重症でも現場の判断で入院させることができない。

 ある日の朝、45歳の患者が、発熱外来を訪れた。すぐに人工呼吸器が必要な重症とわかった。CTの肺の写真で新型コロナとほぼ確定したが、当時はPCR検査の結果が出るのに数日を要した。検査の結果が出ないうちは疑い扱いで、受け入れ先を決められない。心肺停止のリスクがあるので、現場は付きっきりになった。夕方にようやく疑い患者でも入院できる搬送先が決まり、医師が病院まで付き添った。この間およそ10時間、この患者に携わった医師や看護師、薬剤師らは15人以上に上る。だが、診療報酬は5万1千円だった。

 患者数は約3割減り、4月は1800万円の減収になった。

「ウイルスの終息が見えないので、今は赤字を補填できません」(齋藤院長)

 齋藤院長には感染が拡大している実感がある。6月中旬から、発熱外来を受診する患者が朝から夕方までひっきりなしに訪れるようになった。

「『医療体制は逼迫していない』と政府や都は言いますが、実感がないのか、テンポが遅い。5月の連休明けこそ発熱外来に来る人は少なかったものの、今は患者さんでいっぱいです。コロナの入院患者を受け入れる都内のある病院では、コロナ病棟が急速に埋まっていると聞きました」(同)

 医療に必要な費用は削れない。

「人件費以外に削るところがないんです。頑張ってくれているから、給与もボーナスも出してあげたい。難しいところです」

 医療ガバナンス研究所の上昌広理事長は、人件費の重さを指摘する。

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