東京財団政策研究所研究主幹 小林慶一郎(こばやし・けいいちろう、53)/通商産業省(現・経済産業省)、経済産業研究所研究員などを経て現職。政府が新設した新型コロナウイルス感染症対策分科会メンバーを務める (c)朝日新聞社
東京財団政策研究所研究主幹 小林慶一郎(こばやし・けいいちろう、53)/通商産業省(現・経済産業省)、経済産業研究所研究員などを経て現職。政府が新設した新型コロナウイルス感染症対策分科会メンバーを務める (c)朝日新聞社

 緊急事態宣言が解除以降、経済と感染制御の両立が課題になっている。だが、再び感染が広がりつつあり、舵取りの難しさが露呈している。どうすればバランスをうまく保つことができるのか。AERA 2020年7月27日号で、小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹は「検査と隔離」の重要性を説く。

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 公益財団法人東京財団政策研究所の小林慶一郎研究主幹は、政府が7月に設置した「新型コロナウイルス感染症対策分科会」に、経済の専門家という立場でメンバー入りした。これまでの政府のコロナ対応についてどう受け止めているか。

「結果的に死者数や重症者数はヨーロッパやアメリカほど増えなかったという意味では良かったのだと思います」

 そして、問題意識として小林さんが挙げたのは、PCR検査についてだった。

「初期の段階で医療と検査のキャパシティーが両方ともなかなか伸びなかったのは、反省点だろうと思います。特にPCR検査はやろうと思えばできたはず、物理的にもできたはずでした。それができなかったというのは、政策の方向性としてどこかに問題があったのではないでしょうか」

 人口10万人あたりの国内の検査数(5月23日現在)は212.8件と主要7カ国(G7)の中で最も少なく、最多だったイタリアの約4%にとどまる。安倍晋三首相が首都圏など7都府県に緊急事態宣言を出して1カ月後の5月7日の検査数が1万3005人で最も多かったが、安倍首相が目指した「1日2万件」には遠く及ばない。

 経済学者として小林さんがPCR検査を重視するのはこんな考え方からだ。

「感染のリスクが高いと、経済が回りません。間違いなく萎縮してしまいます。消費者が怖がって旅行に行かなくなったり、外出しなくなったりするのは当然のことです。感染リスクが高ければ企業の活動も落ちるし、消費者の活動も止まるので、経済は冷え込みます。どうすればリスクを下げられるかを考えると、検査をして陽性者を隔離するしかありません」

 検査は、経済と感染制御を両立させるための唯一の手段なのかもしれない。小林さんはこう続ける。

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