だが、本書は戦争の重い話ばかりではない。旅に同行する作家・青木俊との珍道中が、ホッとする笑いを運んでくる。

「取材で集めた声を大事にし、事実に即して整理するのがジャーナリスト。どう構成すれば、伝わりやすくなるか。そこは表現者としてとことんやらないといけない」

 どんな人も家族をたどれば誰かが必ず戦争に関わっている。その体験をつないでいかねば、と自戒を込めて話す。

「知らないことはしかたないんです。僕も多くを知らなかった。でも知ろうとしないことは罪深い。そうして人間はまた残念な歴史を繰り返してしまうのだと思います」

 鉄路の果てにあったものはなんだったのか。著者と旅しながら答えを体験してほしい。

(フリーランス記者・中村千晶)

■Pebbles Booksの久禮亮太さんオススメの一冊
 小説『蜜のように甘く』は、社会規範や道徳から解放される喜びについて、繊細に描いた一冊。Pebbles Booksの久禮亮太さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 ルシア・ベルリンの『掃除婦のための手引き書』の決して順調ではない人生を通して思索してきた愛と性と家族と労働についての率直で美しい言葉に心を動かされたなら、ぜひ本書を読んでほしい。

 アリス・マンローの誰もが見過ごしそうな日常の些事から人の心の陰影を描き出す繊細さに癒やしを感じたなら、ジョイス・キャロル・オーツの可憐な少女性と表裏一体の悪魔性にゾクッとしたなら、シャーリイ・ジャクスンの奇想に魅入られたなら、リディア・デイヴィスの理知的なユーモアのカッコよさに痺れたなら、ぜひ読んでほしい。その全てがここに詰まっている。

 無駄のない短編小説を要約するのは簡単ではないから、ただ感想を記したい。彼女のエロティックな想像の自在さは、男性の私にとっても、社会規範や道徳から解放される喜びを体験させてくれた。

AERA 2020年7月20日号