清水潔(しみず・きよし)/1958年、東京都生まれ。ジャーナリスト。著書に『桶川ストーカー殺人事件─遺言』『殺人犯はそこにいる─隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』など(撮影/写真部・小黒冴夏)
清水潔(しみず・きよし)/1958年、東京都生まれ。ジャーナリスト。著書に『桶川ストーカー殺人事件─遺言』『殺人犯はそこにいる─隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』など(撮影/写真部・小黒冴夏)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

『鉄路の果てに』は、ジャーナリストである清水潔さんが、実父の遺したメモ書きと地図を手に、その足跡をたどった旅の記録だ。鉄道への熱い思い、中年コンビの珍道中、そして改めて知る戦争の真実について描く。著者である清水さんに、同著にかける思いを聞いた。

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「だまされた」──実家の本棚で見つけた亡き父のメモ。そこには父が書き記した5文字と地図が添えられていた。『桶川ストーカー殺人事件─遺言』などで知られる清水潔さん(62)の新刊は、そんな強烈な導入で始まる。

「父は2013年に93歳で亡くなりました。鉄道聯隊(れんたい)という部隊に配属され、日中戦争に送り込まれた、戦後はシベリアに抑留された、と病室でぽつぽつ話してくれましたが、詳しくはわかりませんでした」

 数年後、実家の片づけをしていた著者は、メモと地図を見つける。父は何かを伝えたかったのか? その思いに駆り立てられ、地図に残された赤い線をたどる旅に出た。

「一生に一度はシベリア鉄道に乗ることもあるとは思ってました。今がそのタイミングだな、と」

 赤い線は父が配属された鉄道聯隊のルートだった。千葉から下関へ、そこから航路で釜山へ渡り、現在の北朝鮮を経て中国からロシアへ。かつてその鉄道の先はモスクワ、ベルリン、パリまでつながっていた。しかし当然いま同じルートを行くことは不可能だ。

「今回、中国で列車に乗り込み、国境を越えてロシアに入ったわけですが、国境で実に厳しい“取り調べ”に遭いました。『なぜそこまで?』と思いましたが、歴史を振り返れば仕方ない。日本軍はかつて鉄道を使って大陸に進出していた」

 鉄道は道路のない場所へ物資や武器、そして人の命を運ぶ。アウシュビッツ収容所もまた鉄道の終着駅にあった。

「戦争において鉄道は大きな役割を担っている。韓国、中国、ロシアの3カ国を旅しながら、戦争の始まりについて考えました。どこから戦争は始まるのか。19世紀半ばにまで遡ることになった」

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