早川さんが運営する「マゴソスクール」。小学校は少なくとも9月まで休校の予定。教育は貧困生活を抜け出す唯一の「希望」だが、再開は見通せない(写真:早川さん提供)
早川さんが運営する「マゴソスクール」。小学校は少なくとも9月まで休校の予定。教育は貧困生活を抜け出す唯一の「希望」だが、再開は見通せない(写真:早川さん提供)

 新型コロナの感染者が急増するアフリカで、早くも規制解除の動きが始まった。拡大防止か、経済か。その議論の深刻さは日本など先進国の比ではない。AERA 2020年7月20日号で掲載された記事から。

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 アフリカで、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。

 4月下旬に3万人程度だったアフリカの感染者数は6月11日に20万人を超え、7月4日時点で46万人超。外務省医務官としてアフリカ駐在経験もある関西福祉大学の勝田吉彰教授(渡航医学)はこう話す。

「貧困地区では大勢の人が狭いエリアに密集して暮らしていて、ウイルスが入り込むと一気に感染が広がります。また、体調不良を感じてもすぐに病院にかかることができず、発見が遅れることも気がかりです」

 日常生活での人の密集は日本の比にならない。ケニアの首都ナイロビにあるアフリカ最大規模のキベラスラムでは、2.5キロ四方のなかに100万人とも200万人ともいわれる人が生活している。キベラで小学校や作業所を運営する早川千晶さん(53)はこう説明する。

「小さな部屋に10人以上の家族がぎゅうぎゅう詰めで暮らしています。そんな部屋が20~30も集まった長屋が連なっている。ソーシャルディスタンスを取ることは事実上不可能です」

 キベラでは4月以降、感染者が続出した。しかし、無料であっても検査を嫌がる人が多い。
「感染がわかると、保健省の担当者と武装した警察官が来て長屋に住む人全員を隔離施設に連れて行きます。それを恐れて皆検査を受けたがらないし、ほかの病気で受診して新型コロナが発覚するケースもあって、今まで以上に病院に行くことに慎重になっています」(早川さん)

 隔離から戻った人が村八分のような扱いを受ける事例も多い。

 今のところ、アフリカ諸国での新型コロナによる致死率は他地域に比べて高いわけではない。しかし勝田教授は、より医療体制や公衆衛生体制が脆弱な国・地域での感染拡大を懸念する。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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