「アフリカには保健医療体制が崩壊状態にある国や、医療関係者が近づくだけで発砲されるような地域があります。これらの場所で感染拡大が起こると、これまでとは比較にならない甚大な被害が出る恐れがあります」
例えばコンゴ民主共和国の北キブ州では、2018年夏からエボラ出血熱が流行し、流行終息が宣言されたのは今年6月末。エボラ出血熱は発症するとすぐに重症化し、動き回ることができなくなる。発見・隔離が容易で、公衆衛生上は「比較的くみしやすい」感染症だという。
「そのエボラでさえ、抑え込みに2年を要した。その間に麻疹も流行し、エボラ以上の死者を出しています。この地域ではゲリラが跋扈(ばっこ)していて、国際的な医療支援も困難です。そこにコロナが入り込めばどれほどの被害が出るのか、強く懸念しています」(勝田教授)
アフリカでは今、多くの国で規制の緩和が始まっている。ケニアでは7月7日、3月下旬から続いていた首都ナイロビなどの都市封鎖が解除された。8月1日からは国際便も運航を再開する予定だ。エジプトやコートジボワールも7月1日、国際線再開に踏み切った。ケニアでは7月4日に日別の感染者が最多を更新するなど終息の兆しは見えないが、むしろ歓迎の声が大きいという。そこには、コロナによる生活破壊があまりにも深刻な現状がある。
前出の早川さんはキベラで生活して32年になるが、貧困状況は過去最悪だと断言する。
「貧困層のほとんどは出稼ぎや行商などで都市と地方を行き来して何とか生活を成り立たせています。3月以降それができなくなり、家賃を払えず家を追い出される人や日々の食事に困る人が続出しています」
感染拡大阻止か、経済か。日本と同じ議論が切実さを増して巻き起こっているアフリカ。だがここで感染を終息させない限り、世界は常に感染再拡大の影におびえ続けることになる。(編集部・川口穣)
※AERA 2020年7月20日号