わきた・たかじ/1958年生まれ。名古屋大学大学院医学系研究科修了。旧東京都神経科学総合研究所などを経て、2018年から国立感染症研究所長。専門はウイルス学(写真/鈴木芳果)
わきた・たかじ/1958年生まれ。名古屋大学大学院医学系研究科修了。旧東京都神経科学総合研究所などを経て、2018年から国立感染症研究所長。専門はウイルス学(写真/鈴木芳果)

 新型コロナウイルスの専門家会議の「廃止」が表明された。のちに発展的移行と軌道修正されたものの、何があったのか。専門家会議とは何だったのか。座長を務めた脇田隆字・国立感染症研究所長に聞いた。

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――専門家会議の廃止の受け止めをお願いします。

 違和感はありません。そもそも、我々の方から専門家会議のあり方について考える必要があるということを、6月24日の記者会見で提言しています。むしろ、政府はこのままいきたかったかもしれませんが、そこはよくわかりません。

 会議には医学や公衆衛生の専門家がいますが、役割が不明確で法律的な裏付けもないという批判がありました。他の会議体との関係性も不明確でした。感染の広がりは一定程度抑え込めたと考えていますが、一方で経済的なダメージも大きかったと認識しています。今後の対応に感染症の専門家だけでは当然対応できないと考えています。

――専門家会議の存在感が高まるにつれ、政府も専門家会議に責任を押しつけているようにも見えました。

 そんなイメージが作られてしまったかもしれません。ただ、私たちも自ら前に出ていって発信しました。政治家と我々の両方の振る舞いがあって、今のような状況が生まれたのだと思います。

――PCR検査を増やさなかったのが安倍晋三首相の意向に沿わず、廃止された、という見方があります。

 そこは違うと思います。専門家会議も最初からPCR検査は増やすべきだと主張しました。ただ、その時点でのキャパシティーがあり、いかに有効に使うかを同時に考えなければなりませんでした。

 大学の研究室にあるPCRの機械を使えばいいという指摘もありましたが、検査精度管理の問題がありました。実験のPCRと臨床のPCRは違います。陽性が出たら隔離など強い私権の制限がありますから、間違いがあってはいけません。臨床診断、臨床検査の仕組みをしっかり整えて進める必要がありました。検体をいかに検査に流すかというフローの問題もあります。検査のキャパシティー自体は上がっていますが、保健所の負担はとても大きくなっています。

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政治との「距離感」