このように派遣社員のテレワークが進む素地は以前からあった。にもかかわらず、企業が導入をためらう背景にはパソコンの支給や情報管理にかかるコストに加え、制度面のハードルもあったとされる。

 一つは、労働者派遣法で派遣元事業主や派遣先が講ずべき措置として定められている「就業場所の巡回」だ。定期的に就業場所を巡回し、派遣労働者の就業状況が契約に反していないことを確認するよう求めている。また、在宅勤務の場合、派遣会社と結ぶ契約書の「就業場所」にどう記せばよいのか、判断がつきにくかった。

 各企業がテレワーク導入を迫られた今回、こうした法解釈や事務手続きをめぐる懸念も払拭される転機になった。

 感染拡大防止のため2月以降、企業側に正規・非正規を問わずテレワーク推進を要請してきた厚生労働省は、法解釈をクリアにする必要があると判断。電話やメールで就業状況を確認できれば派遣労働者の自宅まで巡回する必要はない、との見解を4月10日にHPで公表した。

 就業場所についても、派遣契約の該当項目に「自宅」と加えればよいと明示。緊急の場合、事前に書面による契約変更を行う必要はないとも付記した。

 これらが相乗効果を生み、在宅勤務の流れを押し広げた。

 とはいえ、経済情勢が急速に悪化する今、解雇や雇い止めなど派遣社員を含む非正規労働者の雇用環境は厳しさを増している。一方で、4月に施行した働き方改革関連法の「同一労働同一賃金」も後押しし、コロナ禍が「派遣」の働き方の幅を広げ、有利性に目を向ける転換点になり得る状況も芽生えつつある。平田さんは言う。

「時間や場所の制約を受けずに働ける環境を求め、派遣という働き方を選ぶ人は増えています。今後、派遣社員の働き方の主流は『出勤オフ』型にシフトし、『テレワークもできる会社』に人材が集まる傾向は進むでしょう」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年6月22日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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