記者会見する伊藤詩織さん/6月8日(写真・野村昌二)
記者会見する伊藤詩織さん/6月8日(写真・野村昌二)

「言葉は人を傷つけ、時に死に追いやってしまうこともあります。これ以上、言葉で人を傷つけることがないよう、何かアクションを起こさなければいけないと思っていました」

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 ジャーナリストの伊藤詩織さん(31)は8日午後、都内で会見を開き、静かにこう語った。伊藤さんは、この日、漫画家のはすみとしこさんら3人に、計770万円の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こした。

 2015年4月、伊藤さんは就職相談のため、元TBS記者の山口敬之氏と都内で食事をした。その際、意識を失い望まない性行為を強要された。17年5月、伊藤さんは名前と顔を出して山口氏からの性被害を訴えたが、その直後からネット上などで、第三者からの誹謗中傷が相次いだ。「死ね」、「首をはねてやりたい」など、命の危険を感じる言葉もあったという。

「夜眠れなくなり、警察に相談したものもあります」

 と伊藤さんは話す。その頃から、何らかの手を打たなければと考えていという。

 同じころ、山口氏自身に損害賠償を求めて提訴し、この裁判は昨年12月、山口氏に慰謝料など330万円の支払いを命じる判決が出たことで一つの区切りがついた。

 今年5月下旬には、プロレスラーの木村花さんがネットでの誹謗中傷が原因で自殺した。同じような苦しみを他の人に経験してほしくない、次の世代に引きついてほしくない――。その思いで今回、アクションを起こすことにしたという。

 訴状によれば、はすみさんは2017年6月から2019年12月にかけて、自身のツイッターに「枕営業大失敗」と描かれた女性のイラストや「当時米国でキャバ嬢として働いてた詩織ちゃん」などと書いた5本のツイートを投稿。イラストでは伊藤さんの名前を明示せず、「この作品はフィクション」と付記したものもあるが、イラストに描かれた女性を伊藤さんと同定することは容易に可能だと主張する。

 はすみさんは、「保守」を名乗る漫画家で、15年には難民の少女をモデルにして「他人の金で。そうだ 難民しよう!」との文言を添えたイラストをフェイスブックに投稿、その後、作品集「『そうだ難民しよう!』はすみとしこの世界」を出版し、物議をかもした。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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