撮影/写真部・小黒冴夏
撮影/写真部・小黒冴夏

 地味で目立たぬ存在だった食パンが主役となり「高級食パンブーム」が起きて早10年。食パン界は今、さらなる進化を遂げている。まずは食パンブームの歴史の解説から。AERA2020年5月18日号の記事を紹介する。

【「高級食パン」10店舗をフォトギャラリーでご紹介!】

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 クロワッサンでもない。バゲットでもない。ましてやあんパンでもない。ただの食パンが、キテるらしい。そう気がついたのは2010年頃のことだ。

 白状するとネタ元は、その後逮捕された、とある女性結婚詐欺師のブログ。東京中のグルメを買いあさってはブログに上げてセレブぶりをアピールしていた彼女が、人気の食パンを求めて、ちょくちょく浅草の老舗パン店まで足を延ばすことを知ってからだった。

 食パンといえば、昭和の子どもたちの給食でおなじみ。自分の場合は、人生で唯一食欲がなかった当時、給食で食べきれなかったパンをこっそりランドセルに隠して、通学路にいる顔なじみの犬にプレゼントしたりしていた。そのため、ランドセルがいつも食パンのにおいで満ちていたという思い出しかないのだが、その食パンが、グルメの表舞台に立った。

 ブームは拡大し、「高級食パン」とか「生食パン」という言葉を生み出しながら進化して、今も続いている。そんな食パンブームの歴史を、あらためて専門家に解説してもらおう。国内外のパン1万個以上を食べ歩いたという旅するパンマニア、片山智香子さん(48)だ。

「高級食パンの流行が本格化したのは13年ごろのこと。セブン-イレブンが『金の食パン』を発売したことが、ブームに火を付けたと言われています」

「セブンプレミアムゴールド 金の食パン」はコンビニのプライベートブランドでありながら素材や製法にこだわった食パンだ。やわらかく、しっとりもっちりとした食感で、そのままでもおいしく食べられる。1斤100円前後が一般的な価格だった当時、これを強気の250円で世に放った。かくしてこの高級路線が大成功。4カ月で1500万個を売り上げる大ヒット商品となった。

 この頃から有名ベーカリーから町のパン屋さんまで、プレミアム感のある高級食パンを売り出すようになる。バゲットの名店「ヴィロン」系列の食パン専門店「セントル ザ・ベーカリー」や、「乃が美」も誕生する。

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