4月10日、天皇、皇后両陛下は赤坂御所に専門家会議の尾身茂副座長を招き、感染状況などについて説明を受けた(写真:宮内庁提供)
4月10日、天皇、皇后両陛下は赤坂御所に専門家会議の尾身茂副座長を招き、感染状況などについて説明を受けた(写真:宮内庁提供)
原武史(はら・たけし)/1962年生まれ。政治学者、放送大学教授。近著に『地形の思想史』(KADOKAWA)(写真:原さん提供)
原武史(はら・たけし)/1962年生まれ。政治学者、放送大学教授。近著に『地形の思想史』(KADOKAWA)(写真:原さん提供)

 4月10日、天皇、皇后両陛下は赤坂御所で専門家会議の尾身茂副座長から感染拡大の状況について説明を受けた。広がるコロナ危機に対し、おことばは出るのか。天皇制を研究する原武史さんが語った。AERA 2020年4月27日号から。

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 代替わりの少し前、2019年3月に出版した『平成の終焉』の最終章に、「ポスト平成が平成と全く変わらないというのは考えられません。代替わりすれば、必ず何らかの変化が起こるはずです」と書きました。ですが、まさかこんなに早く平成との違いが顕在化するとは思いませんでした。

 天皇と皇后が自発的に変えたわけではありません。新型コロナウイルスの感染が拡大したことで、結果的に大きく変わったのです。現在、天皇と皇后は行幸(ぎょうこう)、行啓(ぎょうけい・地方訪問などの外出)がほぼできません。せいぜい赤坂御所と皇居の間を往復するだけです。5月27日に予定されていた園遊会も中止となったので、赤坂御所と同じ敷地内にある赤坂御苑にさえ行かないことになりました。

 つまり、ほとんど人目に触れることがなくなったのです。定期的に全国各地に足を運び、存在を人々に見せる。そのことができなくなっているわけですから、このままでは存在が埋没することになりかねません。

 ――ここで原さんは、16年8月に上皇陛下(当時は天皇陛下)が出したビデオメッセージについて指摘した。陛下は、「国民の安寧と幸せを祈ること」(=宮中祭祀(さいし))と「人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うこと」(=行幸)を大切な天皇の務めと述べていた。

 上皇が定義づけた「象徴としての務め」、その柱の一つができない状況になっています。そうなると、現在できる方法を考えると思います。それを考えた時、メッセージを出すという選択肢はあり得るのではないか。

 ――4月7日、原さんはツイッターで「緊急事態宣言が出たあとに天皇はなんらかの動きに出るのか、それとも出ないのか」とつぶやいた。12日、安倍首相が星野源さんの映像を使ったメッセージを出すと、「首相は自らのビデオメッセージを流すことで、天皇のビデオメッセージを封印するつもりだったのか」とつぶやいた。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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