「3カ所の大規模施設や軍港を通して、町の造りが体感できたんです。原爆ドームや平和公園に行くだけではわかりません」

 そうしたことを、署名してくれた2万人と賛同した著名人などのネットワークを活用して発信することもできると語る。

 瀬戸さんは建物について、「それぞれが自分の言葉で広島をどう語れるか。場所の価値を見つけることが大事では」と話す。

 広島に文学資料館の創設を求めている「広島文学資料保全の会」事務局長・池田正彦さん(73)と代表の土屋時子さん(71)は、「軍都でもあったのだから、宇品も含めて町を再整備してはどうか」と口をそろえる。

 相次ぐ反対の声を受け、今年2月17日、湯崎英彦知事は、県の解体案を先送りすると表明した。公明党原爆被害者対策委員会も19日、全棟を保存するよう県と国に要請した。当面、来年度予算編成まで約1年間の時間が与えられたことになる。

 県議会第2勢力である民主県政会の中原好治議員(57)は、宇品出身。92年に民間の利活用プランを出したメンバーの一人で、基本的に全棟保存の立場だ。

「若い人たちの活動が突破口にならないかと思っています。そこからいろいろつながっていけると面白い」

 広島は、かつて原爆ドームの保存か解体かを巡って、市民や行政、メディアが粘り強く議論を重ね、保存にこぎつけた歴史を持つ。被爆75年の今年、被爆都市としての姿勢が問われる新たなテーマに直面している。(ノンフィクション作家・高瀬毅)

AERA 2020年4月6日号より抜粋