ただ、前出の横井さんは「ファミリー向けにシフトしたからと言って、ファミリー客であふれるようになった居酒屋はまだ少ない」と言う。串カツ田中も家族連れが増えた半面、一時は喫煙者が遠のき売り上げが落ちる「副作用」も伝えられている。

「居酒屋の苦境のひとつは、アルコールの安さでの勝負ができなくなったこと。情報があふれて、誰もが原価を知る世の中では、アルコールをいくら安くしても割高感が拭えない。コンビニの安さにはどうやってもかなわないのです」(横井さん)

 そうして、飲んべえ争奪戦で一人勝ちしているのがコンビニだ。技術の発達で、コンビニの冷凍食品や総菜、缶詰などが格段においしくなったことも武器となっているという。

 そんなとき迎えた、新型ウイルスによる巣ごもりムード。飲んべえたちはますますコンビニに向かいそうだが、横井さんの見立ては少し違う。

「店を選ぶ決め手として、味は5%、あとの95%はその他の情報と言われています。技術の発達でますます味の差別化は図りにくくなり、『こんなこだわりがある』『こんなスタッフがいる』など、情報の重みが増してくる。味気ないコンビニ飲みを、居酒屋が凌駕する日が来るかもしれません」

 そんな指摘を実感しているのが、このひと月、ほぼ毎日飲み歩いているというアエラの男性デスク(44)だ。

「普段から予約が取りにくい人気店は、この間もずっと満席。一方で隣のお店には客が一人もいないこともある。客が来ないお店が今しっかり改善点を考えて『いいお店』が増えてくれれば、飲んべえにとって最高です」

 このデスクは「3月後半に入って、夜の街に客足が戻ってきた」と話す。苦境を乗り越えた居酒屋の夜明けは近いのか。前出の横井さんは、飲んべえ争奪戦のカギをこう指摘する。

「令和の消費を動かすのは日本に住む“外国人”と“老人”、そして“病人”です。外食産業も今までとは違った展開を見せるでしょう」

(ライター・福光恵)

AERA 2020年3月30日号