イラスト:土井ラブ平
イラスト:土井ラブ平

 飲み会の自粛を、と政府が要請して約1カ月。元々、不調に苦しんでいた居酒屋は大丈夫なのか。AERA2020年3月30日号は、「飲んべえ争奪戦」の来し方行く末を展望する。

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 2月25日、新型コロナウイルスの感染拡大で政府が策定した基本方針で、自粛してほしいことのひとつとして挙げられたのが「飲み会」。テレワークの推奨で会社に行かない人も多くなり、電車や夜の街はいつになくがらがらだ。それでなくても深刻な「居酒屋不況」が伝えられていた中、飲んべえのオアシスは大丈夫なのか。

 そもそも居酒屋が苦境に陥っていた原因の一つは、若者を中心とした「酒離れ」とされる。

 会社の宴会を嫌う「忘年会スルー」が流行語になったり、居酒屋で飲み物を注文せず、水で乾杯する投稿写真が賛否を呼んだり。たしかに若者の飲んべえ率が下がっているというのも本当のようだ。

 一方、国税庁が昨年発表した「酒のしおり」によれば、日本人の成人1人当たりの酒類消費量は約80リットル(2017年度)。1992年度の約100リットルをピークに2割も減ったとはいえ、どうして、けっこうな量のお酒が今も飲まれている。

 飲食店にとってアルコールは、もうけを出すための最重要アイテムだ。日本フードアナリスト協会創業理事長の横井裕之さんが教えてくれた。

「飲食業の教科書には、店の材料原価率は33%以下に抑えなさいと書かれ、さらに25%以下なら優良店です。そして材料原価を抑えたいときに使えるのがアルコール。メニューによっては数十円の原価で出せるものもあり、飲食店ではもっとも利益率の高いメニューになっています」

 一般的に家庭や職場では、疎んじられることが多い飲んべえは、飲食店では一転、誰よりも大事にされる上得意様ということになる。だからこそ、居酒屋にファミレス、ファストフード、コンビニまで加わってあの手この手の「飲んべえ争奪戦」が繰り広げられてきた。

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