ところが、起訴された2件の事件について、事件の前に父親から殴る蹴るなどされたが娘が性交を拒めないほどひどい暴力ではなかった、と判断。娘が自分で進学を決めるなどしていたから、父親に「人格を完全に支配」されていたとまではいえない、従って、刑法の準強制性交罪の成立要件である「抗拒不能」(抵抗が著しく困難な状態)とは言い切れず無罪だ、とした。

 こうした一審の認定を高裁は、「本件行為が、父親が実の子に対して継続的に行った性的虐待の一環であるという事実を十分に評価していない」と全面的に否定した。日常生活で自由に行動できることと性交時の抵抗が困難になることは両立するとし、娘が外部への相談をためらったことにも理解を示した。

「オセロみたいに、一審判決をひっくり返した。被害者の心理を正しく理解した判決で、非常に嬉しい」と、山本さん。ただ、なぜ裁判官によってこんなに結論が違うのか、それは問題にしていきたいという。

 一審の無罪判決からの1年、虐待を受けた身として他人事ではなく「すごく絶望して、でもそのことを感じないように、心が傷つかないようにしてきた」と涙ぐんだ。

「フラワーデモが広がって、聞いてくれる人たちがいたから、それも話せるようになった」

(朝日新聞記者・河原理子)

AERA 2020年3月23日号より抜粋