一方、社外には仲間もいれば、指導者もいる。大学院時代の教授や先輩が宇宙業界の道標になり、SPACETIDEのメンバーやベンチャー業界の知人、友人が課題を共有する同志だ。こうした社外ネットワークが充実するのと反比例する形で、自分が会社の価値観と乖離していることに佐藤さんは気づく。

「30代半ばまでは会社に育ててもらっている感覚もありましたが、40歳手前の頃には、顧客からの売り上げノルマを課され、それを納めることで給料をもらうだけのドライな関係になっていました」

「私はもう、この会社にいては志を貫くことができない」と気づいたとき、この関係性はお互いにとってよくないと佐藤さんは悟った。同時期、「どれだけ業界の人脈や見識を広げても、ビジネスの深い部分には当事者としてタッチできない」とコンサル業務に限界を感じるようにもなった。

 そんな中、ispaceからは転職のオファーを受け続けた。粘り強く働きかけたのは同社COOの中村貴裕さん。佐藤さんの大学院の後輩だ。

 提示されたのは、役員ではない管理職の「マネージャー」のポストだった。

 佐藤さんは約1年間、迷った末にispaceのオファーに応じることにした。

 転職を考えている周囲の同年代も、役職や収入へのこだわりを捨てきれない人が多い、と佐藤さんは言う。

「定年退職までにいくら稼げるかとか、定年退職したときの社会的ポジションを考えると、今と同等以上のポジションでなければ、となるようです」

 収入減や安定を失う場合、家族の同意を得るのも難しい。

 佐藤さんは妻と2歳、8歳の娘の4人暮らし。佐藤さんの妻も安定を失うことには難色を示したという。ただ、コンサル業界で仕事を続けることに前向きになれない思いを折に触れて率直に伝えると、「あなたがそう思うなら仕方がない」と受け止めてくれるようになった。

「時間をかけて少しずつ理解してくれた。最後には、自分の気持ちを尊重してくれた感じです」(佐藤さん)

 年始に妻の実家を訪ねた際、思いがけないことがあった。義父から「仕事、楽しんでいるそうじゃないか」と言われたのだ。

「家族の前でそんな思いを口にしたこともありませんでした。妻はそばで感じてくれていたんだと知り、自分の内なる思いを再認識できました」(佐藤さん)

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