闇に迫るため、西岡さんは関係者に夜討ち朝駆けをかける。門前払いされながら取ったのは「手紙作戦」。JR北の旧現経営陣に手紙を出し、応じてくれた人をひたすら訪ね歩いた。

北海道は広いし、冬は寒い」

 と笑い飛ばすが、地を這うような取材は、「絶対に書いてやる」というジャーナリストとしての執念だった。こうしてJR北では、いまだ革マル派の影響力が残っている実態を明らかにする。取材に2年、執筆に1年を費やし600ページもの大作を仕上げた。

 取材の過程で労働組合のあり方も見えてきた。JR東労組を脱退した組合員の大半は、今も「無所属」で若い世代には労働組合不要論も出ている。

「労働者側がそれに迎合したら誰が雇用を守ってくれるのか。いつまでも勝ち組と違うやろ。何で労働組合は必要か、そこを読み取ってほしい」

 この言葉がずしりと胸に響く。(編集部・野村昌二)

■リブロの野上由人さんのオススメの一冊

『私は本屋が好きでした あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏』は、出版の流通改革を訴え、書店の社会的機能を大きく見積もった提言としての一冊だ。リブロの野上由人さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 書名は過去形。書店批判の書である。「つまらない本屋は滅びます」と手厳しい。

 矛先は主体性のない仕入れと無頓着な陳列。その象徴として、なぜ本屋にヘイト本が並ぶのかを問う。川上から川下まで出版流通の構造を調査し、そこに無責任の体系を見て「出版界はアイヒマンだらけ」と嘆く。

 この本を多くの書店員がシリアスに受け止めている。特に、読者・お客様のニーズに最大限応えようと日々努めている真面目な書店員にとって悩ましく難しい課題だ。誰かの欲しい本が、他の誰かを傷つけている。書店は誰のために本を売るのか。

 著者は主体性回復のための出版流通改革を訴え「本屋の店頭が面白くなれば、ヘイト本は自然と減っていくでしょう」と結んでいる。いずれにしても書店の社会的機能を大きく見積もった提言である。

AERA 2020年2月10日号

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら